「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助氏(右)と早貴被告(撮影:吉田 隆)

 あれから丸5年が経つ。

 5年前の2018年5月24日夜10時ごろ、和歌山県田辺市の資産家の「紀州のドン・ファン」野崎幸助氏が自宅2階の寝室で全裸で亡くなっているところを妻とお手伝いさんによって発見された。享年77歳だった。

 救急車で搬送されたものの、死亡が確認され、その後、司法解剖のために和歌山市内の病院に運ばれた。後に死因は急性覚醒剤中毒と判明。殺人事件が疑われた。

 事件から約3年後、ついに被疑者は逮捕され、起訴もされている。ところが事件の公判はいまだ始まっていない。

 いったいこの事件の真相はなんなのか。独自取材で迫ってみた。

大手の消費者金融が見向きもしなかった霞が関や丸の内に的を絞って「金貸し」

 野崎氏はその莫大な資産を主に貸金業で形成したが、法律の改正によって利率が下がり貸金業は儲からないと見切ると、生業を酒類販売業に転換、「アプリコ」という会社に7人の従業員を雇い、和歌山県内や三重県などの高級ホテルなどに販路を持っていた。

 かつて貸金業をしていたとき商圏は東京が中心だった。それも丸の内や霞が関で、宣伝チラシが入ったティッシュ配りにアルバイト女子大学生を動員し、幅広く営業をしていた。事務所は置かずに、客と会うのはもっぱら当時定宿としていた日本を代表する高級ホテル「ホテル西洋銀座」の喫茶室だった。

 その理由について野崎氏はアプリコの番頭、通称「マコやん」に対してこんな風に説明をしていたという。

「貸金業の看板がある事務所に客は行きたくないものだ。誰かに見られたりしたら嫌だし、薄暗い負のイメージがあるからね。だから高級ホテルの喫茶室にして客の抵抗感が少なくなるようにしたんだ。丸の内や霞が関で宣伝をしたのは一流会社の社員や官庁勤めの公務員なら返済が滞ることがないと計算したからだよ。職場が担保になるから返済が遅れたら職場に電話をかければ直ぐに返済してくれる。そりゃあ中には強心臓の者もいて返済が遅れることもあったけど、街の金融業と比較したらその率は凄く低かったもんだよ」

 公務員や一流会社の社員がお金に困って貸金に頼ることが果たして多いのか? これについて野崎氏は笑いながらこのように答えたという。

「不意にお金が必要になることは誰にでもある。不倫での手切れ金とかギャンブルで穴を開けてしまって家族にも言えないこととかがあるワケよ。銀行に相談しても借りるまでには時間がかかるし、家族にバレる恐れもある。だから手軽に私のところに借りに来たんだと思う。当時、武富士とかプロミスのような大手は渋谷とか新宿、池袋のような繁華街をターゲットにしていて私の狙っていた丸の内や霞が関には見向きもしなかったからね。まあ独占的にあそこで商売をしたのが成功の秘密だったと思うよ」