「Kさんには3000万をあげて」
この時のリビングでの会話で、話が雑談に及んだ時、Kさんはふとこんなことを言って苦笑したという。
「社長(註・野崎氏のこと)は、自分が亡くなったら1000万円を私にあげるからと常日頃口にしていたのにね……」
マコやんも吉田氏もその台詞は何度も耳にしていたという。だが、法律上は口で言っただけの“遺言”は通用しない。書類にしなければ有効性はない。以前から吉田氏はKさんにそのことを伝え、「一筆書いておいてもらったら」と勧めていたが、Kさんは「社長に面と向かってお願いすることは怖い」と言って、結局、遺言書などは残されていなかった。
そこに早貴被告が戻ってきて、ふいにこんなことを口走ったという。
「あの~、社長から『オレが亡くなったら(Kさんに)3000万円をあげるように』と伝えられていました」
マコやんはこれを聞いて非常に驚いたという。早貴被告が自分の遺産の“取り分”を減らしてまで、Kさんに3000万円を分与することを申し出たからだ。それまで、早貴被告とKさんの仲は、傍目から見ていて良好とは見えなかったという。なぜ早貴被告は自ら分与を言い出したのか。吉田氏も同じ疑問を持ったという。
野崎氏の生前から親しくしていたマコやんと吉田氏は、野崎氏が亡くなった後も、2人で会うたびに事件のことを話し合っていた。吉田氏はジャーナリストが本業なので、事件の真相を探っていた。マコやんも気持ちは一緒だ。協力は惜しまなかった。そこで話題になったのがこの疑問だった。
マコやんが言う。
「私と吉田さんで何度も話し合って出した結論は、『Kさんがなにか早貴被告の大事なことを目撃していたのではないだろうか』ということです。Kさんが野崎社長のお宅に帰ってきたときや、あるいはトイレから出てきたときになど、寝室のある2階から降りてきた早貴被告を目撃したりしたのではないか、ということです。そんな証言を警察でされたら早貴被告にとって致命的ですから、何としてもKさんの口封じをしなければならないと思った、だから3000万円の提供を自ら口にしたのではないか、ということでした」