「やっていませんから」

 番頭マコやんも吉田氏も、検察の自信のほどを感じ取っているという。マコやんは次のように解説する。

「検察官に『裁判の時の証人になってくれませんか』などと言われたことはありませんでした。情状証人となるキーマンの私たちに対してそのように依頼しないのは、検察が確たる証拠を握っているからでしょう。今年4月になって担当した検察官から『異動になりました。お世話になりました』との電話がありましたが、その人も裁判については何も触れませんでした。

 私も吉田さんも事件すぐに早貴が犯人しか考えられないと結論付けています。もちろん事件発生当初は彼女も逮捕もされていなかったのでおおっぴらに口にすることはありませんでしたが。

 吉田さんは早貴に『犯行したのなら自首したほうがいい』と面と向かって言ったこともあります。彼女は『やっていませんから』と薄ら笑いを浮かべて否定していましたが……。

 これは私の推論ですが、今回の事件は、社長が吉田さんを田辺に呼んで、彼の口から早貴に対して離婚を告げてもらうつもりだったことがきっかけになっていると思っています。社長はああ見えて、相手に対し面と向かってはっきりものを言うことができないタイプなのです。だから早貴への離婚を切り出すのも、吉田さんに頼もうとしたのではないか。そして、そのことを察知した早貴は、自分に遺産が入らないことを恐れてその前に殺してしまった、ということだと思います」

 果たして、裁判で検察側がどのような証拠を出してくるのか。そして事件の真相はどこにあるのか。初公判が待たれる。