クリエイティブな人が無意識にしていること
大黒:たとえば、アイデアの「準備期」ですが、そこで、何かを生み出したいと考えますが、この段階ではアイデアは出ません。しかし、この時間は無駄な時間ではありません。クリエイティブなものを生み出すための準備期間なのです。世の中の多くの試みはこの準備期で終わります。
では、どうしたら準備期から先に進めるかというと、「あたため期」がある。休息や発散や異なる行動を通してモードを切り替え、意識的なところにあるアイデアの卵を無意識的なところに移行する。無意識の中でアイデアが再編成されるのです。
この無意識の中で行っている情報の処理を、何かのタイミングで意識的なところにまた戻す。その瞬間にひらめきがやってくる。
この意識的なところから無意識的なところへ、そして、無意識的なところから意識的なところへ移行するトリガーをクリエイティブな人は持っている。
私は昔よく戦略的に仮眠を取りました。日に数回に分けて仮眠を取るのです。私の場合は目覚めた瞬間がトリガーで、それまで何度考えても分からなかったことが急に分かったりする。ですから、休むというのは脳が活動を停止しているわけではなくて、休むこともまた一つの仕事だと考えた方がいい。
──意識しているとだんだんそういう切り替えができるようになっていくのでしょうか。
大黒:成功体験もあるでしょうね。経験を重ねるとコツがつかめてくるものなのかもしれません。最終的にはセンスの問題になります。
──本書では音楽や音楽家についての言及も数多く見られます。ミュージシャンなどはデビューして最初の数作が傑作で、そこからだんだん作品の質が落ちていくケースがよく見られます。いろんな要因があるのでしょうが、ミュージシャンのモチベーションの変化もあるように思われます。特に、本書で説明されている心理学者エドワード・デシやマーク・レッパー教授らが明らかにした「アンダーマイニング効果」などは、深い関係があるように思いました。
※アンダーマイニング効果:最初は自然と湧いてくる達成感でやっていたことに対価や成績が付くと、やがて対価や成績が目的になってしまう。やがて、対価や成績が下がるとやる気を失う場合がある