人類と流暢に会話を交わすロボット、自由に空を行き交う自動車、エレベーターで手軽に宇宙旅行へ──。いまだ実現されていないそれらの技術は、我々を魅了して止まない。
一方で、科学技術の発展は、人類そのものの存在も脅かしかねない。ロボットや人工知能が自分の仕事を奪うのではないかと心配をする人もいるだろう。2045年には、人工知能が人類の知能を凌駕するシンギュラリティに到達すると考える研究者もいる。SF作品には、人類が創造した高度な知性を持つ技術が、人類に対して牙を剥くという設定がしばしば登場する。
2023年時点で、SF作品に登場する技術はどの程度実現しているのか、人工知能と人類の闘いが始まる可能性はあるのか――。『あのSFはどこまで実現できるのか テクノロジー名作劇場』(集英社インターナショナル)を上梓した、米持幸寿氏(Pandrbox代表)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター・ビデオクリエイター)
──SFでは、「人類対人工知能」という構図がよく見られます。人工知能が感情を持ったとき、彼らは人類にとって代わろうとし、人類に攻撃を仕掛けるのでしょうか。
米持幸寿氏(以下、米持):「とって代わるとは何か」という点を、まず考えてみましょう。
哺乳類霊長目ヒト科ヒト族は、進化の段階で様々な属が誕生し、枝分かれしていきました。その中で、今現在残っている属が、我々「ヒト属(ホモ属)」のホモ・サピエンスです。
180万年~170万年前、ケニアには、ホモ・サピエンスの先祖であるホモ・エレクトスが生息していました。さらに、同時期の同じ場所には、パラントロプスというヒト族も存在していたことがわかっています。ホモ・エレクトスと比較し、パラントロプスは大柄で力が強かった、と言われています。しかし、彼らは100万年ほど前に絶滅してしまいました。
パラントロプス絶滅は、ホモ・エレクトスとの生存競争に負けたためである、とも言われています。なぜ、強いはずのパラントロプスが非力なホモ・サピエンスに負けたのか。
非力なホモ・エレクトスは、知能を使い武器を作り出した。これにより、効率的に狩りをすることができるようになり、生存競争に勝利した。これが「とって代わる」という現象です。
ホモ・エレクトスとパラントロプスの例では、生きるために必要なものが競合しています。食べ物です。食べ物をどちらが手に入れられるかという状況になったとき、武器を作り出したホモ・エレクトスが圧倒的に有利になったのです。
さて、人類とAIは、果たして競合関係になることがあるのでしょうか。AIはリンゴや肉を食べたがるでしょうか。
食べたがりませんよね。では、どうやったら生き残れるか、賢いAIは自分で考えるでしょう。自らを生かしているものは一体何か。今でしたら、電力です。電力供給を安定的に得るためには、AIはどうするべきでしょうか。
ここまで突き詰めて考えると、AIやコンピューターが人類と真っ向勝負に出る可能性は非常に低いと考えられる。
「人類は邪魔だから排除する」と考えたロボットが人類せん滅に乗り出す。SF的には、そういう設定にしたほうが面白いのは確かですね。
──書籍中で、音声対話技術の実現の難しさに触れていました。