「2001年宇宙の旅」で既に描かれていた技術

米持:音声対話技術の難易度が高い理由は、たくさんあります。「音声認識技術」と「言葉の理解・処理技術」の研究開発が別々に行われていることは、大きな要因の一つと言えるでしょう。

「音声認識技術」は、コンピューターが人の声を聞いて、それをテキスト化する技術。「言葉の理解・処理技術」は、テキスト化された言葉を理解し、それに対して適切な回答を作り出す技術。この2つの技術がないと、音声対話は実現不可能です。

 Appleが提供しているSiriやGoogleの「OK Google」は、一見するとこの2つの技術がうまく融合しているように感じられるかもしれません。ただ、AppleやGoogleも、「音声認識技術」と「言葉の理解・処理技術」の開発は別々の部門でやっていました。両部門の技術を、うまく融合させて作ったものが、Siriやアレクサ、それらを使用したホームスピーカーです。

 ChatGPTを含め、現在流行っている対話エンジンやチャットボットは、文章の中の主語、目的語、動詞の並びを処理しているに過ぎません。質問の意味を理解して、回答しているわけではない。一問一答で会話が終了するものがほとんどです。まだ対話と言える代物ではありません。

 文章のキャッチボールである対話ができるようになるには、まだまだ時間がかかると実感しています。

──1970年代~1980年代のSF作品に登場するディスプレイは、ブラウン管ディスプレイのような丸みを帯びた形状をしています。当時の技術では、フラットパネルディスプレイの登場を予見することは難しかったのでしょうか。

米持:1970年代では、予測できていなかったでしょう。当時のテレビは、画面は21インチもないのに、奥行きは画面の幅よりも長かった。ブラウン管を小さくし、奥行きをいかに短くするか、という点が当時のメジャーな研究開発テーマでした。ブラウン管以外の表示装置が登場するなんて、思ってもなかったでしょうね。

 ただ、一部のSF作品では新たな表示装置の出現を予見するものも登場します。書籍中で紹介した「2001年宇宙の旅」です。この映画は、1968年に公開されました。劇中には、宇宙船の中にびっしりと平らに並んだパネルディスプレイが登場します。パネルの表面や角には、ブラウン管ディスプレイに見られるような丸みはありません。

 さらに、「2001年宇宙の旅」では、板型のディスプレイが登場します。タブレットです。制作陣もこの技術が将来実現するなんて、想像しなかったでしょうね。

映画「2001年宇宙の旅」の撮影風景(写真:TopFoto/アフロ)