人には、やりたいこととやりたくないことがある。「やらなければならないこと」にやる気を出すためにはどうすればいいのか。そもそも、なぜ人によって興味を持つことや意欲が湧くことが異なるのか。
やる気があれば何でもできるのだとしたら、やる気の出し方さえコントロールできれば、もっと意欲的に効率的に生きられるのではないか。能力や成果の根源とも言える「やる気」とは一体何なのか。『モチベーション脳 「やる気」が起きるメカニズム』(NHK出版新書)を上梓した脳神経科学者で、東京大学大学院情報理工学系研究科次世代知能科学研究センター特任講師の大黒達也氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──「脳内の活動からいえば、やる気があるから行動できるのではなく、脳がやる気スイッチを入れたためにやる気を実感して行動できる」「モチベーションを上げるためには脳のやる気を出させる方が大事」と書かれています。脳にやる気を出させるとは、どういうことでしょうか。
大黒達也氏(以下、大黒):脳は意識的な活動も無意識的な活動も司っていますが、実は無意識的な活動の方が先に出るという知見があります。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の生理学者、ベンジャミン・リベットの実験などは有名で、ボタンを押すとある体験が起こる状況を作ると、脳はボタンが押される前に準備を始めるようになる。
このように、脳の中ではまず無意識的な活動があり、その後に意識的な活動に移行していく。そして、この無意識の活動は意識とは関係のない処理によって起きる。モチベーションの動きを理解するためには、無意識の活動を理解する必要があります。
私の行っている脳の「統計学習」という研究分野の中に、「不確実性の計算」があります。ここで言う不確実性とは「難しさ」や「分からなさ」です。
高い不確実性を受け続けると、脳は嫌気がさしてやる気を失う。逆に、あまり簡単なことばかりやらされると、飽きて嫌気がさしてくる。この不確実性のバランスを「ゆらぎ」と呼びますが、ゆらぎをうまく使うと、不確実性で予測できない新しさに興味を持ち、疲れたら簡単なことで学習意欲を引き上げるといった方法で無意識をコントロールできるようになります。
──「予測しやすいことと予測困難なことをバランスよく学習している状態が大切」「予想外のことが適度に起こると、脳のワクワク感も上がります」と書かれています。しかし、ある程度決まり切ったことを繰り返しやり、予想外の出来事があまり起こらない仕事もたくさんありますが、こういった仕事の場合、モチベーションを安定的に確保することは難しいでしょうか。
大黒:そうですね。どのような仕事でもマニュアル化すると予想外のことは起こりにくくなります。ただ、予想外のことが起きないようにシステムを組み立てていくことは、仕事においては重要です。
一方で、どんな仕事にも共通する予想外の要素として人との出会いがあります。自分が歩んできた人生とは異なる経験を持つ他者と交流することによって、予想外の事態が発生する。そういう意味では、どのような仕事でも不確実性を求めることは可能だと思います。
【関連記事】
◎『脳の闇』の中野信子が指摘、日本人に「社会不安障害」が多い理由