自動運転の研究者を悩ませる「トロッコ問題」
──SF作品では、ホログラム式のディスプレイと操作パネルがしばしば登場します。この技術は、どの程度まで研究開発が進んでいるのでしょうか。
米持:ホログラムは、何もない空間に三次元の画像や映像を映写する技術です。世界各国のスタートアップが、既にホログラムディスプレイを商用化しています。ただ、いつでもどこでもディスプレイを表示できるという商品にはほど遠く、箱の中に光の屈折を利用して3D画像を表示するようなものがほとんどです。
ホログラム式の操作パネルが世に定着するのは、先の話だと思います。そもそも、操作パネルをホログラム式にするメリットがあるのか疑問です。カッコいいとは思いますけれど(笑)。
ホログラム技術が必要とされている分野は、操作パネルよりもVRです。VR用のゴーグルやグラスが汎用化されていますが、あれを装着せずにVRの世界に入ることができたら、相当楽しいでしょうね。
──現在、世界各国の自動車会社が自動運転技術の開発にしのぎを削っています。SFのように、自動運転車が街中を走り回る時代になるためには、どのような技術的な課題を解決する必要があるのでしょうか。
米持:現在、自動運転の研究者の間では「トロッコ問題」が盛んに議論されています。
「線路の上を暴走したトロッコが走っている。そのままいくと、線路上で作業をしている5人の作業員を轢いてしまう。あなたの目の前にはトロッコの線路を切り替えるスイッチがある。そのスイッチを押すと、作業員5人の命は助かるが、別の線路上にいる人間を1人轢く。さあ、あなたはスイッチを押しますか、押しませんか」
以上が、トロッコ問題です。
とある自動運転車が街中を走っているとします。そのまま真っすぐ進むと、自動運転車は1人の人間を轢いてしまう。それを避けようとハンドルを切ると、今度は2人の人間を轢いてしまう。真っすぐ進むか、ハンドルを切るか。最も被害が少なく、なおかつ倫理的に多くの人を納得させられるような結論を、自動運転車はコンマ数秒で導き出さなければなりません。
自動運転車の研究においては、単純にデータを集めて学習させるだけでは不十分です。どのシチュエーションで何を優先すべきか、という点をあらかじめデータとして学習させないといけない。そういった研究が完成するまで、我々はレベル5の自動運転車の登場を待たなければなりません。
──書籍内では、「記憶や人格の移植」にも言及されていました。