「育成就労」を創設する改正入管難民法などを可決、成立した6月の参院本会議(写真:共同通信社)「育成就労」を創設する改正入管難民法などを可決、成立した6月の参院本会議(写真:共同通信社)

 今年2月、福岡県の食品製造会社で働いていたベトナム国籍の技能実習生、グエン・テイ・グエットさん(20歳)が、死産した男児の遺体を交際相手の家のゴミ箱に遺棄したとして逮捕された。グエットさんと恋人の男性は、技能実習生や受け入れ先の企業を管理する監理団体から「妊娠したら帰国させる」と繰り返し言われていたと裁判で証言した。

 グエットさんは妊娠を隠しながら働き続け、ある朝、腹痛に耐えかねて早退し、恋人の男性の家のトイレで男児を死産した。恋人の男性は帰宅後に血まみれで床に横たわるグエットさんを発見して病院に運んだ。その後、技能実習生を支援する組合の職員と警察官が病院を訪れ、事件が発覚した。グエットさんの無罪を求め、既に1万4000人を超える署名が集まっている。

 実は、このような事件が発生したのは今回が初めてのことではない。なぜ技能実習生は妊娠を隠すのか。『妊娠したら、さようなら 女性差別大国ニッポンで苦しむ技能実習生たち』(集英社インターナショナル)を上梓した、ベトナムからの技能実習生を支援しているNPO法人日越ともいき支援会代表理事の吉水慈豊氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書では、技能実習生として日本に来た女性が妊娠すると、雇用先から退職を迫られるケースが数多く紹介されています。

吉水慈豊氏(以下、吉水):外国から来た人たちを安価な労働力としか考えない技能実習生の受け入れ企業が少なくないのです。そのため「妊娠したら使い物にならないから帰国させよう」と考える企業がしばしば出てくる。これが技能実習生をめぐる日本の現状です。

──妊娠を理由に退職を迫るのは違法ではないですか?

吉水:男女雇用機会均等法によって禁止されています。また、技能実習法でも同じように違法にあたると定められており、帰国をさせて、出産させて、再度日本で仕事を手伝うのが本来のあり方です。受け入れ企業や監理団体が法律を守れば、妊娠した技能実習生も問題なく再出発できる。ところが、そこが正しく運用されていません。

──技能実習生を受け入れている企業は、出産や一定の育児の期間、給料を出し続けなければならないのですか?

吉水:産前産後休業(産休)や育児休暇の間は、国から技能実習生に出産育児一時金が出ますので、雇用先がお金を出さなければならないということはありません。

 ただ、様々な手続きが発生することに加えて、技能実習生の受け入れ先は、日本の若者が集まらないから即戦力として技能実習生を求めているわけですよね。産休や育児休暇を取られると困るというのが本音なんです。