平均68万円の借金を抱えて来日する技能実習生
吉水:最低賃金を下回らない雇用契約書を交わしています。ただ、たとえば半年前に面接をして雇用を決めても、半年たっていざ受け入れのタイミングになったら、受け入れ先企業の資金繰りが悪くなり、「受け入れることができなくなった」という理由で、いきなり解雇になるケースがあります。
あるいは、当初は月13万円払う約束だったのに「出勤日を減らすから8万円くらいにしてほしい」など、減額を求められることもあります。
──数カ月トレーニングして、借金までして来日して、「ごめん雇えなくなった」と言われたら技能実習生としてはたまりませんね。
吉水:たまりませんよ。特定技能の場合は非自発的離職者(雇用先の事情で仕事をやめさせられる人)を出してはならないという制度になっているのですが、技能実習生の場合は「労働者」ではなく「技能実習生」として受け入れているから解雇がしやすい。
退職を迫られた技能実習生が困ってOTITに相談すると、「解雇の問題は労基署だからそちらに相談してください」などと言ってOTITは問題と向き合うことから逃げる。技能実習生を受け入れると決めた以上、国はもっと責任を持つ制度にするべきです。
──ベトナムから来る技能実習生は、平均で68万8143円の借金をして日本に来ると書かれていました。
吉水:ベトナム政府が定めているのは3600ドルの借金です。ただ、それは送り出し機関に対して払うお金です。送り出し機関は、これに加えて、センターで生活する寮費、食費、その他の生活にかかる経費は別に取ります。その結果、センター次第ですが、ベトナムから来る技能実習生の借金は60万円から80万円の間まで膨れます。
さらに、家族の借金まで肩代わりさせられて、膨大な借金を抱えて日本に来る技能実習生もいます。これはもちろん家族の問題ですが、要するに多額の借金を背負った状態で日本に来る若者が少なくないのです。
また、ベトナムの金融機関は簡単にお金を貸してくれますが、金利がすごく高いですから。
──泥沼ですね。
吉水:そうです。だから、手取りで6万円くらいしかもらえないと分かると、冷や汗がどっと吹き出す。
──借金をそれだけして、そんなに安い賃金で雇われて、日本に来る価値が本当にあるのかと疑問に思ってしまいます。
吉水:ベトナムの今の現実として、大学を卒業していない若者は月に手取りで3万円くらいしか稼げません。大学を卒業していても7万円くらいです。
一方で、ハノイやホーチミンといった都市部は賃金が上がってきています。日本で技能実習生をやっていたけれど、失踪してベトナムに戻ってしまった若者とも話をすることがあるのですが、先日「ボク今ベトナムで7万円稼げている」「これくらい稼げるなら日本で技能実習生にならなくて済む」と言われました。
彼は日本に来た時には13万円の手取りを約束されていたのに、実際に来てみたら、いろいろ理屈を付けられて6万円しかもらえなかったそうです。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。