11月の消費者物価指数は前年同月比で3.7%増と40年11カ月ぶりの水準に達した(写真:つのだよしお/アフロ)

 9月末に0.75%という大幅な利上げを発表した連邦準備制度理事会(FRB)。利上げは5回連続で、政策金利が3%を超えるのは2008年初頭以来である。ジェローム・パウエル議長は「物価の高騰を緩和して長期的な経済への打撃を避ける必要がある」と語る。

 イギリスのインフレ率は11月に11%を超え、40年ぶりの高水準になった。日本を含め、世界各地で物価の高騰が起きているが、その理由は何なのか。それぞれの国で物価高騰の起こり方はどのように異なるのか──。『世界インフレの謎』(講談社現代新書)を上梓した東京大学大学院経済学研究科教授、渡辺努氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

世界同時多発インフレの原因はコロナパンデミック

──日本や欧米などで、物価上昇が発生しています。メディアは、ロシアのウクライナ侵攻による資源の高騰が、世界的な物価の上昇を招いたと報じていますが、今日の物価高騰の主要な要因は何なのでしょうか。

渡辺努氏(以下、渡辺):多数のメディアはウクライナ戦争がインフレの原因のように報じていますが、戦争が始まったのは今年2月です。欧米では、インフレは昨年の4月頃からスタートしており、戦争の1年ほど前から始まっていた。

 ウクライナ戦争はインフレを加速させた要因の1つですが、根本的な原因ではありません。

 私の考えでは、世界で同時多発的に起きているインフレの主要な原因はコロナウイルスのパンデミックです。

──コロナと世界同時多発インフレはどのようにつながっているのでしょうか。

渡辺:パンデミックによって、人々の行動には大きく3つの変化が生まれました。それが、インフレを作り出しているように思われます。

 1つ目は世界的な労働形態の変化です。リモートワークに慣れた人々が、再び物理的に仕事場に戻ることに抵抗を感じるケースが一定数見られます。そのまま離職してしまう人もおり、特にアメリカやイギリスには働かなくなった人たちがいます。

 人が働かなくなり、人手不足になり、賃金が上がる。結果的にモノの生産やサービスの維持が困難になり、モノが足りなくなり、物価と賃金の両方を上げている。

 2つ目は消費のスタイルの変化です。パンデミックの中で人々の消費が、サービスからモノに切り替わりました。

 例えば、レストランで食事をするのではなく、食材を買ってきて家で調理して食べる。この変化はパンデミック初期に広く起こった変化でしたが、いまだにそのトレンドが続いています。

 だから、モノの需要は増えるけれど、需要に見合う供給が用意できない。その結果に価格が上がる、ということが起こります。

 3つ目は企業の行動の変化で、以前の企業はグローバルに生産拠点を持ちましたが、パンデミックでサプライチェーンが大混乱して海外で安く生産することができなくなりました。

 ロサンゼルスの港にモノを運ぶ船が列をなして入れないという事態もありましたが、こうなるとモノの生産に支障をきたします。

 企業は遠い海外で生産してきたものを、これからは近場の別の国か、あるいは、自国内で生産しようと考えるでしょう。今までのように世界中から一番安く生産できる場所を選ぶのではなく、近場や国内に選択が限られる。結果として、生産コストが上がり、物価も一緒に上がる。

コロナ禍では、コンテナを積んだ船がロサンゼルス港で列をなした(写真:AP/アフロ)