だが、中国企業のプロジェクトはあくまでも請負ベースで行われるので、その資金を準備しなければ何も始まらない。他方、途上国は、インフラ整備に必要な多額の資金は持ち合わせていない。そこでその旨を中国企業側に伝えると、当該国有企業はすぐに動き、現地大使館に話を繋ぐ。現地大使館には商務部担当のアタッシェが駐在しており、そこから話が本国の商務部に上がり、適切な国営銀行が選ばれることになる(我が国の大使館と違うのは*2、中国はこの現地での相互連携が極めてスムースに行われるということである)。

*2 我が国大使館は、特定の企業をサポートしているとみられることを避けるため、すべてに慎重。

 途上国は、そのインフラ整備を一帯一路の枠組みの中で行うと、資金調達に関して中国の銀行を使う以外の選択肢はなく、またそのローンはタイド(ひも付き)であるという難点はある。だが、もしも世銀やアジア開発銀行(ADB)から借りると、詳細で時間のかかる審査を経る必要があり、加えて厄介なコンディショナリティも付いてくるので、こういった点をすべて省いてくれる中国からの融資は魅力があり、結局はこれを使うことになるのである。

2018年9月、北京で開かれた中国・アフリカ協力フォーラムサミットに併せて、中央アフリカ共和国のトゥアデラ大統領と会見した習近平主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

綻びが出始めた一帯一路

 中国の国有企業と国営銀行の二人三脚で進められる一帯一路は、発足当初は順調な滑り出しを見せたが、数年も経つと問題点がいろいろ出てきた。

 そもそも、一帯一路のプロジェクトは先に述べたように、拙速で準備されたものが多く、実施段階に入るとエンジニアリング上の問題が表面化し、設計の途中変更を余儀なくされ、大幅遅延やコストオーバーランを引き起こすものが増えたのだ。

 また、短期間でのデリバリー(受け渡し)を売り物にして現地政府の受注にこぎつけたこともあり、当該国有企業は、早期完工を目指し、地元対策などには目もくれず、効率優先でことを進める。だから技術者はもちろん、労働者も大量に中国本土から呼び込み、資機材に至ってはほとんど中国本土のものを使用し、現地ではこれを据え付けるだけといった具合で工事を進めた。

 このため、現地には十分な雇用機会をもたらさず、また、資材の現地調達もなかったことから、地域経済界との間で軋轢が生じたり、環境悪化問題等を契機に地域で反対運動が起きたりした事例もあった*3。College of William and Maryの2019年の調べによれば(AidData*4)、一帯一路プロジェクトの35%は、汚職、環境、地域との軋轢等から、実施不能または大幅遅延に陥ったとした。

*3 モンテネグロの高速道路プロジェクトは環境問題を引き起こし、地元の反対にあった。

*4 同大学が中国の165か国、13,427件のプロジェクト融資案件を対象に行った調査結果であり、2021年9月に発表された。