中国が債務の返済猶予を受け付けなかった理由

 何故に中国がこのような立場をとったのかを理解するためには、これら機関の性格の違いを知る必要がある。国家国際発展合作署は、2018年商務部の海外援助部門から独立して設置された政府機関であるが、それは商務部がそれまで所管してきた無利子融資業務を引き継ぎ、これを継続して実施することを主な業務とした。

 中国輸出入銀行は、途上国に対する中長期資金(15-20年)の提供を主たる業務とするが、その資金には、政府助成が入っていることからその金利は、市場金利よりは低く、2-3%である*6

*6 輸出入銀行の資金は、次の二つの窓口のいずれかから提供されている。一つは途上国に対する直接融資であり、途上国のsovereign guaranteeの下に提供される。もう一つは、輸出金融の一環として提供されるbuyer creditであり、途上国の国有企業が中国の国営企業から調達する設計施工サービスの支払いに充てられる。

 他方、中国開発銀行は、輸出入銀行と同じく国営の政策銀行とはいえ、その運営は、独立採算制を旨としており、利益を上げることが想定されている。

 その資金はもっぱら内外の資本市場での債券発行により調達しており、このため、高い信用格付けを維持することは極めて重要であり*7、債務の据え置きといった財務状況の悪化につながるような処置を採る余裕は無いのである(ちなみに、中国政府内での中国開発銀行の地位は高く、それは、国務院直轄の機関であり、地位的には大臣レベルであり、他のいかなる大臣の指示も受けない。他方、輸出入銀行は、その業務は国家国際発展合作署の監督の下に行われており、副大臣レベルの機関である)。

*7 S&Pでは“A+ with stable outlook”とされている。

 このように中国開発銀行は、基本的には市場原理に沿って運用されており、業務に対する政府の関与はなく、この点で、他の二つの機関とは大きく異なっており、これが世銀、IMFの要求には応じ得ないとした理由である。