トランプ氏の大統領復帰で、台湾海峡の戦争リスクが高まりそうだ。トランプ氏はロシア・ウクライナ戦争の早期停戦を実現させるとする一方、中国・習近平国家主席はロシアと北朝鮮と軍事同盟強化を支持するとの見方がある。停戦実現後は台湾海峡をめぐり、習近平国家主席はロシアのプーチン大統領・北朝鮮の金正恩総書記と組んでトランプ氏に対抗する可能性がある。
(福島 香織:ジャーナリスト)
米大統領選が終わり、ドナルド・トランプが返り咲いた。このことで多くの人たちが期待するのは、ロシア・ウクライナ戦争の停戦が早まり、中東の混乱が終息に向かうことである。だが、それは同時に、米中対立の先鋭化と台湾海峡危機の激化も予想されるということだ。
このトランプのカムバックは、中国にとっては間違いなく悪夢だろう。では台湾、日本にとってはどうなのか。中国の悪夢に巻き込まれず、新たな時代のステージへの道を切り拓くことが可能だろうか。
トランプは自分が大統領になれば、中国からの輸入品すべてに関税をかけること、その関税率も60%から100%という高いものになることなどを公約として語っていた。
その発言を実行に移せば、米中経済デカップリングが本格化することになり、おそらくは打撃は中国の方が大きい。すでに谷底を低迷している中国経済はさらに深い打撃を負うことになるだろう。
米国超党派の連邦予算責任委員会が4月に出したリポートによると、トランプの言うような対中関税を実行すれば、中国製品の輸入量は85%減少することになるという。
こうした米中経済デカップリングによって、双方とも経済的に損害を被るが、より深刻なのは中国だ。中国の国内総生産(GDP)成長率は2018年時で6.6%だが、今年はおそらく目標の5%を達成できず、4.5%程度とみられている。UBSの最近リポートによれば、仮にトランプが対中関税を60%に引き上げれば、中国の年間の成長率の半分が消し飛ぶことになるという。
大統領選とほぼ並行して北京で開催された中国全人代常務委員会では、今年秋に打ち出したGDPの8%に近い10兆元規模の財政出動の具体的な使い方についても討議されたようだが、こうした中国の決死の覚悟の景気浮揚策も効果が相殺されることになろう。
また、トランプはかねてから香港の自治と自由の破壊について批判しており、中国を米国が主導する銀行決済システムSWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出す可能性があるのではないかとみられている。
西側経済圏からの中国デカップリングの本格化は、おそらく短期的には日本やその他の国々に厳しい試練を与えることになる。習近平政権はすでに、三中全会においても米国経済とのデカップリングに対する覚悟を見せているが、人民が受ける貧困、生活苦が招く中国社会の不安定化が、すでに今起きている社会報復性テロ事件や群衆事件を一層頻発させることになるだろう。
日本の少なからぬ企業は、まだ中国市場、あるいは中国製造業に依存しているところも多く、こうしたトランプショックの厳しい余波を受ける部分は小さくない。願わくは、こうした経済の枠組みの大転換で、日本企業が新たな役割を早々に見出して有利なポジション取りができるようになってほしいところだ。
中国がトランプ政権から受けるであろう圧力は経済にとどまらない。