トランプはロシア・ウクライナ戦争を停戦させ軍事パワーを対中国に注ぐ

 トランプは選挙戦前に、自分が大統領ならロシア・ウクライナ戦争を1日で終わらせることができる、と主張していた。1日で停戦にこぎつけるかどうかは別として、ロシア・ウクライナ戦争が終結に向けて大きく動くことは間違いなく、この予測は中国の中央軍事委員会聯合総参謀部、国防大学、外交部の専門家たちによって提出されたとされるリポートの中でも言及されている。

 トランプはおそらく、ウクライナのゼレンスキー大統領にクリミア奪還をあきらめ、プーチンと停戦交渉の席に着くように圧力をかけるのではないか。ロシアと北朝鮮が目下軍事同盟を強化しているのは、戦争を拡大するのが目的ではなく、停戦に向けた有利な条件づくりではないか、と見られている。

ロシアのプーチン大統領(左)と北朝鮮の金正恩総書記(右)は軍事同盟を強化した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 米国はウクライナ支援から手を引き、その分の軍事パワーをインド太平洋地域に注ぎたい考えだろう。選挙期間中、トランプが何度もロシア・ウクライナ戦争を終わらせるべきだと訴えたのは、米国にとって真の敵、ライバルがロシアではなく中国であるというトランプの思想を反映している。

 中国とロシアは、バイデン政権期間、急接近し、いまや準軍事同盟に近い関係だが、トランプは中露分断を図ろうとするとみられている。問題はプーチンが、その米国の誘いにのるかどうかであり、今、チャイナウォッチャーの間で注目されているのは、習近平がロシアと北朝鮮の軍事同盟関係に対して、どのような態度に出るかだ。

 オーストラリア在住の華人法学者の袁紅冰が最近独自ネタとして発信している情報を信じるならば、習近平政権は公式にはロシアと北朝鮮の軍事同盟化を肯定も否定もせず態度を保留しているが、すでに軍部に対して通達した3つの指示の中に、北朝鮮がロシアに対してより積極的に軍事協力するよう仕向けるべきだ、といった内容が含まれているという。

 この習近平が秋に軍部に通達した指示とは、聯合総参謀部、国防大学、外交部らの専門家に分析させたトランプが大統領選に勝利した後の国際情勢を想定した中国としての対策だ。それは、以下の3つだ。

①    ロシアへの支援を強化し、北朝鮮とロシアの軍事同盟強化を支持すること
②    中東地域のいわゆる「抵抗の弧」(ガザ地区諸派を支援する抵抗の枢軸=ハマス、イエメン・フーシ派、レバノン・ヒズボラ、カタイブ・ヒズボラなど)に対し軍事、経済的支援を行い、イスラエルを牽制し、できるだけ中東において米国の軍事パワーをひきつけさせておくようにすること
③    台湾作戦の軍事的準備および経済的、政治的準備をさらに急いで完璧にしておくこと

 袁紅冰の情報が信頼できるかは、チャイナウォッチャーの間でも意見が分かれている。だが、トランプが中露分断を図る一方、習近平がロシアと北朝鮮を利用して米国を牽制しようと考えていることは、客観的にみても事実だろう。