このような戦略の下、一帯一路の援助内容も変化を見せ始め、従来からの“箱もの”インフラ中心から、よりソフトで戦術的な内容のものにかわっていった。具体的には、監視社会実現に必要なデジタル技術の輸出(5G機器や監視カメラ等)、海底ケーブルの敷設等の通信網の整備、スマート・シティの建設、治安当局の能力開発等に重点が移っていった。

54カ国も国連加盟国があるアフリカに積極的に手を差し伸べる中国の意図

 さらに、この段階において明確になったのは、一帯一路が軍事戦略上の重要な手段として用いられるようになったということであり、これと関連したインフラ施設の整備に重点が置かれた。例えば、戦略上重要なシーレーン上にあるジブチ、パキスタン、スリランカ、カンボジア等の港湾への支援が強化され、これら港湾が中国艦隊の寄港可能港として使用できるように整備された*12。さらに、これら港湾に近接する地域に、国際空港の建設が提案され、海空両面からの軍事使用が可能な拠点の整備が目指された。

*12 バースの延伸、水深の増大、岸壁の耐荷重の強化等

 同時に、習近平国家主席は、将来の国際政治は、国連主導型で進められるべきだとの考えを有している。これは一見いかにも公平で民主的なアプローチにみえるが、それは国連加盟国の多くは、途上国であり、これら途上国を中国側に靡かせることは容易であるという打算に基づく提案である。

 だからこそ、中国は54カ国もの国連加盟国があるアフリカ地域に対する支援を強化してきたのであり(勿論、その主な狙いは、地下資源の確保ではあるが)、また、太平洋地域も、そこに15カ国もの主権国家が散在することから、同地域への進出を強化してきている。先に述べた、グレーゾーン国に対する綱引きも、このコンテクストの中でとらえるべきだろう。

 中国の世界制覇への動きは、習近平主席の第3期就任が確定した段階で、さらに加速し、より確固たるものとなり、これを阻もうとする勢力があれば、容赦なく打ちのめそうとするであろう。アジア近隣諸国における地政学的リスクが高まっている現在、我が国は、このような国を隣国に持っているのだということを片時も忘れるべきではなく、反撃力の不断の強化と防衛網の高度化を図ることが必要であろう。小さくとも、俊敏な反撃力を有するが故に、手ごわい相手とみなされるようになることが、我が国が取りうる唯一の有効な牽制策であると言えよう。