(塚田俊三:立命館アジア太平洋大学客員教授)
中国の一帯一路は、2013年以来、世界のインフラ市場を席巻してきた。それは、あたかも国有企業を先兵として途上国に送り込み、そのコントラクターとしての戦場での戦いを、後方から国営銀行が支援するかのような連携プレーのなせる業であったといえよう。
当初、一帯一路は多方面から歓迎されたが、プログラムが進むにつれて、綻びが出始めた。特に問題となったのは、債務の返済である。
「支払期限がきた無利子貸し出し、返済は一切無用」
中国の国有企業は、できるだけ大きく稼ぐためにプロジェクトを膨らませて提示することが多く、これに伴う途上国の借入金も巨額となった。このため、数年もすると債務の返済に窮する国が続出した。
深刻な債務危機に直面した途上国は、中国に対し、債務の削減を求めたが、中国側はこれには頑として応ぜず、債務の軽減を図るどころか、むしろ、プロジェクト資産の差し押さえ、さらには、債務の返済に代わる地下資源の譲渡を求めた。
このような経緯があったことから、「中国の債務の取り立ては厳しい」という評判が途上国の間で広まっていった。
そうした認識が途上国で共有され始めた中、先月8月18日、中国の王毅外相は、突如アフリカの17カ国に対し、「支払期限がきた23件の無利子貸し付けについては、その債務の返済を一切求めない」と切り出したのだ。
この発表は、ほかでもない中国が行い、しかもその総額が100億ドルにも達するものであったことから、世界の注目を浴びた。
債務の減免にはこれまで頑なな態度をとってきた中国が、何故にかくも寛大な施策をとることとしたのであろうか? そこには、何か隠された意図があったのであろうか? あるいは、それは単に、今や世界のスーパーパワーとしての地位を確立した中国は、世界のリーダーとしての責任を自覚し、それに相応しい振舞いを取り始めたということであろうか? 本稿においては、これらの問題を、中国の対外政策において中心的な役割を果たす一帯一路の変遷との関係から見ていきたい。