一帯一路の「構造」
一帯一路は、その導入以来すでに10年を経るが、その性格は徐々に変化してきた。
当初の狙いは、過剰な生産能力を抱えていた中国国営企業にそのはけ口を海外市場で与え、その活性化を図ることであった。これを受けて国営企業は、大挙して途上国のインフラ市場に乗り込み、手当たり次第にプロジェクトを見つけ、形だけは取り繕い(フィージビリティあり、環境問題無しとしとする等)、これを請負事業として途上国に売り込んでいった。
その手法は、非援助型の対外経済協力とされる“対外経済合作”によるものであり、具体的には、中国企業が、自らプロジェクトを発掘し、これを基本設計から、建設、引き渡しに至るまで一括して引き受け、完成次第これを途上国に引き渡すとするものであり、その契約上の性格は、中国企業が海外からの発注を受けて行う請負事業である。
通常、先進国が実施する経済協力であれば、フィージビリティ・スタディー(S/F)、環境影響評価(EIA)、基本設計等は第三者が実施し、その枠組みの下で、別の事業者がこれを施工するという手筈となるが、中国の対外経済合作では、こういった二段階手続きは踏まず、国営企業がそのすべてを一括して実施する。言い換えれば、S/FやEIA、さらには、基本設計はすべて中国企業が自ら行うので、その内容は自分に都合のいいように決められる(例えば、上記写真キャプションで述べたケニアの長距離鉄道は国立公園(Nairobi National Park)内を通過するが*1、このような路線の建設は、通常の環境影響評価では決して認められないにもかかわらず、中国企業が実施したEIAではこれを良しとした)。
*1 New York Times, August 7, 2022 “Jewel in Corruption - The troubles of Kenya’s China-funded rails”
中国企業は、この利点を活かし、プロジェクトのサイズを必要以上に膨らましたり、時間のかかる環境対策を省いたりすることができるし、さらには、発注者の要望に応じ、完工時期を早めたり(例えば、次期選挙までに完成させるとか)、建設以外の目的に使用する曖昧な資金を浮かせたりすることもできる(例えば、次回の選挙資金向けとか)。
途上国政権にとっては、中国企業が提案するプロジェクトは、面倒な調達手続きを要せず、工期も短く、すべて丸抱えでやってもらえるので大変ありがたく、また、いろいろ“お土産”も付いてくるので、できることなら中国企業に発注したいと考える。