自由主義陣営の目から見れば、同陣営が圧倒的な支持を得ていると考えがちであるが、途上国は我々が思うほど自由主義陣営に傾いていない。
中国は、アフリカ諸国には、実質的な面で既に圧倒的な食い込みを見せており、それが故、中国のアフリカ諸国における評価は決して悪くはない。アフリカ全域をベースに世論調査を行っている調査機関、アフロバロメーターが、昨年アフリカ34カ国を対象として行った調査によれば、63%が中国を肯定的に評価し、米国のそれ(60%)や国連のそれ(57%)を上回ったとしている。ましてや、アフリカにおいては影の薄い日本は選択肢にも挙がっていない状況であった。
また、ロシアも、アフリカには、かなりの食い込みを見せており、サハラ砂漠以南の地域では最大の武器供与国であり、また、アフリカの20カ国とは軍事協定を結んでいる*9。このほか、マリ、リビア等の国々に、ロシアの傭兵集団、ワグネル・グループ*10を送り込む等、様々な軍事支援を行っている。
*9 読売新聞8月29日号3面
*10 Wagner Groupは、2014年のクリミア半島侵攻以来その存在が明らかになった傭兵集団であり、プーチン大統領の私的軍事集団であるともいわれている。
より高次の世界戦略として位置づけられる一帯一路
上記で述べた中国の対応は、一帯一路が新たな段階に入ったことを示している。一帯一路が打ち出されたのは、習近平が国家主席となった第一期(2013-2017年)の期間中であるが、そこでの重点は、国内経済のさらなる発展を促し、これを通じてその権力基盤を強化することにあった。具体的には、先にも述べたとおり、過剰な生産能力を抱える国有企業に対し、そのはけ口を与える、また、外の世界から隔絶した中国北西内陸部に対し中央アジア・欧州につながるland-bridgeを提供することであった。
習近平政権も第二期(2018-2022年)に入り、その政権基盤が確立すると、同主席は、その思想を、特に歴史観を強く打ち出した*11。同主席は、中国がかつて西欧諸国に踏みにじられたという苦い記憶を踏まえ、“中華民族の偉大なる再興”を国家目標とし、今世紀半ばまでに、経済、政治、軍事のすべての面で世界覇権を確立するとした。
*11 習近平主席は、歴史を好み、また、歴史から学ぶことを重視する。
勿論、かかる壮大な夢は一夕にして実現するものではなく、まず途上国においてその支配構造を固め、これを踏み台として、世界制覇に向かうとするのが、現実的な方策であろう。この意味で、途上国経済への侵攻を図る一帯一路は、かかる世界戦略を進めるうえで欠かすことのできない重要な布石として位置づけられた。