「これからみんなでピクニックができる」

 短期宿泊施設の医師と女性スタッフに体験してもらった後、装着拒否や中年女性の涙の理由を質問すると「ナーバスになっている避難民もいるから気にしないで」とだけ説明した。次はルブリン郊外の複合型福祉施設に向かった。24時間の介護・看護体制で入所者をサポートしている。フィジオセラピストが常駐し、リハビリセンターを完備する充実した施設だ。

 ウクライナ避難民28人がここで暮らす。うち2人が車イス利用者だ。キーウ出身のリリアさんは両足を支える特別な補助具と歩行器があれば歩けるが、避難する時に持ち出せなかったため、ここでは車イスを使っている。夫スレイニさんはジョージア出身で、交通事故で軽度の身障者となり、避難先での妻の介護に自信を失い始めていた。

 2人には5歳の息子がいる。リリアさんは「2月24日にロシア軍の攻撃が始まってから8日間は地下壕で過ごした」と言って携帯電話で撮影した時の写真を見せてくれた。その後、16時間かけウクライナ西部の母親宅に避難し、しばらくして母と兄、夫と息子5人でポーランドに脱出してきた。兄は施設の庭係として働いている。

地下壕で休むリリアさんの息子(筆者撮影)

  スレイニさんにJINRIKI QUICKを使ってリリアさんと散歩に出かけてもらった。張り切りすぎたスレイニさんがバランスを崩して尻もちをつくハプニングがあったものの、リリアさんの目に涙が光った。2人はガッツポーズを見せ、リリアさんはJINRIKI QUICKを慈しむように抱きしめた。

JINRIKI QUICKを使って初の散歩に出かけるスレイニさん(右)とリリアさん(左、筆者撮影)

  施設の職員アニヤ・マジさんは「スレイニがこんなに自信を持って行動するのを見たのは初めて。女性介護士は大きな男性入所者の車イスを押すのに苦労してきたが、これを使えば楽ちんね。私も庭の休憩所まで車イスを押すのに大変な思いをしてきたが、これからみんなでピクニックが楽しめる」と表情をほころばせた。