(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
ウクライナに侵攻したロシア軍による使用が危ぶまれている化学兵器。そのひとつであるサリンを、1995年に日本の首都の地下鉄に撒いて未曾有のテロ事件を引き起こしたのが、オウム真理教だった。
その後継団体は、いまも日本国内で活動を続けている。教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)への絶対的帰依を明確にしている「Aleph(アレフ)」と、やはり麻原への絶対的帰依を貫きながら「Aleph」と一定の距離を置く「山田らの集団」と呼ばれる2つの主流派。それに麻原の影響力は払拭したとする上祐史浩代表が率いる「ひかりの輪」と自称する団体だ。この3つの団体を合わせて構成員は約1650人とされる。
そして、かつてオウム真理教が布教活動に注力したロシアにも信者が残る。公安調査庁の公表したところによると、2020年には約130人が現地で活動を続けているという。上祐氏は地下鉄サリン事件当時の教団モスクワ支部長だ。
そのロシア信者が日本国内で武装蜂起し、東京拘置所に拘留中の麻原彰晃を解放してロシアに連れ帰るという、いわば「麻原奪還テロ」を画策したことがあった。日本人にしてみれば、悪夢のような奪還計画だった。
綿密に練られたロシア人による「教祖奪還計画」
事件は未然に阻止され、メンバーがロシア当局によって逮捕されたが、私はその裁判の取材でロシアに渡ったことがある。2000年から01年にかけてのことだ。そう、ちょうどプーチンが最初に大統領に就任した頃だ。
首謀者はドミトリー・シガチョフという若くて熱心な麻原信奉者だった。麻原がいなければ、この世は滅びると真剣に考えていたらしい。