プーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 世界にはいろいろなタクシーの呼び停め方がある。

 日本では道行く空車のタクシーを見つけては、手を肩よりも高く掲げるのが一般的だが、モスクワでは車道脇に立って拳をつくり下斜め45度くらいに腕を突き出す。そうやって車の停まってくれるのを待つ。いまから20年前に訪れたモスクワで知ったことだ(いまでもその習慣は変わっていないはずだ)。想像するに、厳しい冬の寒さに厚手の外套を着ているから、腕を上げずに済むそのポーズが定着したのだろう。

モスクワで乗ってみた白タク

 しかも、当時はソビエト連邦崩壊の混乱がまだ続いていて、停まるのは一般車両。日本でいうところの「白タク」で、自動車を持つ人たちが商売にしていたり、気が向いたドライバーが道すがらに乗せたりする。

 利用者は停まった車の運転手と窓越しに交渉する。「○○へ行きたい」と目的地を告げると、運転手が料金を提示する。交渉が成立すると自動車に乗り込んで出発。

 私もモスクワ市民と同じポーズをとってみた。停まったのは黄土色をした見たこともない旧式の乗用車で、高齢の男性が運転していた。助手席に乗り込んで走り出したのはいいが、妙にガソリン臭い車で、しかもそのうち運転手がこちらに構うことなく煙草を吸い出したから、怖くなったことを覚えている。

 そんな時代に大統領に就任したのがプーチンだ。