「ファイブアイズ」としての立場を鮮明にしはじめた加盟国

 こうしたインテリジェンス協力のなかで、アメリカが長年重要視してきたのが「ファイブアイズ」である。英語を母国語とするアングロサクソン系の国家であるアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによるインテリジェンス同盟で、「UKUSA協定」のもとで機密情報を共有している。UKUSA協定加盟国は「エシュロン」と呼ばれる通信傍受システムで結ばれてきた。特にシギント(シグナル・インテリジェンス=電波や通信の傍受)における情報共有の信頼関係は揺るぎないものがある。

 元NSA(国家安全保障局)のエドワード・スノーデンによる機密情報の暴露まであまり一般的に知られていなかったこの枠組みは、かつては秘密裏に活動し、その実態が表に出ることはほとんどなかった。だが昨年あたりから明らかにモードが変わってきた。互いの情報共有もさることながら、価値観を共有しない国々を牽制する目的で、ファイブアイズを構成する国々が連携して声明等を発表するようになっている。

 ファイブアイズが連携し公に声明を出す大きな契機になったのは、2020年6月、香港での反政府的活動を取り締まりを目的とする中国政府による「香港国家安全維持法」の制定だ。さらに中国政府が香港立法会議員の資格剥奪を可能にするルールを導入すると、ファイブアイズの外相は共同で「中国の行動は、国連にも登録されている中英共同宣言に基づき果たすべき国際的義務の明らかな違反である」と中国を非難する声明を発表した。

 また昨年7月には、アメリカと英国が、米マイクロソフトの企業向けメールシステムに発生したサイバー攻撃について、中国の情報機関「国家安全省」傘下のハッカー集団が実行したものだったとして強く非難したこともある。米英両国の立場表明は、明らかにファイブアイズでの情報共有によるものであるのは明白だった。以前であれば、ファイブアイズの活動を背景にした立場表明などというものは考えられなかったことだが、もはやそのネットワークや活動を隠そうとはしなくなった。

 今回のウクライナ侵攻でも、イギリスの呼びかけで、ファイブアイズの国々がオンラインで対応を協議しているし、加盟各国はロシアに対して強い非難を表明している。同時に、ファイブアイズ加盟国に対しては、サイバー攻撃や偽情報の拡散には特に注意が必要だとの見解を明らかにしている。ファイブアイズ加盟国の結束は明らかに強くなっている。国際機関で長年勤めた知人によれば、国際会議の場でファイブアイズが協議を行うという場面になると、他国の関係者は当然のように追い出されてしまうという。「徹底した結束と秘密主義だった」と、この人物は筆者に語っている。

 実はこれまで、ファイブアイズの足並みがそろわないこともあった。というのも、ニュージーランドだけは、中国にあまり厳しい態度はとりたがらない傾向があったからだ。ニュージーランドにとって中国は最大の貿易相手国なので「対中非難」の態度を鮮明にすることを躊躇してきた。