サイバー部隊も動いた。アメリカのサイバー軍や、ハッカーを多く抱えるNSA(米国家安全保障局)の関係者が、2021年10月までにはウクライナに入っているのが確認されている。サイバー空間での監視も、ロシア側からのサイバー攻撃対策も徹底的に行なっていたはずだ。イギリスからも、これまでも頻繁にロシアでオペレーションを実施してきたMI6のサイバーチームや、GCHQ(英政府通信本部)のハッカーらも協力していただろう。
このように、ファイブアイズに限らず、NATOや西側の多くの“プレーヤー”が、かなり前から侵攻に向けた準備を行なっていたと考えられる。
リスクを冒してもプーチン牽制のためにインテリジェンスを公表
冒頭に書いたように、今回、バイデン政権は、昨年11月末頃から繰り返し、アメリカの情報機関からの分析として、プーチン大統領が侵攻の命令を下す可能性を強調し続けた。本来なら、そうした諜報活動で得た情報を公開するのは、現場で活動を続ける諜報員などの活動を妨げたり、命を危険に晒したりすることになるために、行われない。
だが今回は、それを次々と意図的に公開していった。米英政府は、自分たちの諜報活動の一端が露呈する危険を冒してでも、ロシアを追い詰めたかったということだ。そして、プーチンがウクライナ侵攻の命令を下した暁には、ロシアに効果的に経済制裁を打てるようにと、米英の諜報機関はフランスやドイツにもある程度のインテリジェンスを提供していた。加えて欧州連合(EU)の一部関係者にも一定の情報を伝えていたという。
ここまでのところ情報戦では米英の圧勝だ。ロシアはかなり追い詰められている。経済制裁もじわじわと効果を出し始め、それに伴いロシアのスパイの情報収集能力も低下し、オリガルヒはとっくに国外に逃げ、前線にいる兵士の士気は上がらず、国民の不満はどんどん高まりつつある。
あとはいつプーチンが白旗を上げるのかだ。いま、ファイブアイズ各国を中心に、プーチンの頭の中を探ろうとするスパイ活動が繰り広げられていることだろう。