(佐藤 けんいち:著述家・経営コンサルタント、ケン・マネジメント代表)
ローマ教皇フランスシスコの訪日が無事終了し、先週11月25日に離日した。今回の訪問はタイとあわせての8日間だったが、30℃を超える暑さのバンコクから、いきなり氷雨の降る東京、さらには長崎、広島、ふたたび東京への駆け足の移動は、82歳の教皇にとっては、かなり過酷なものがあったのではないだろうか。
長崎と広島では核廃絶のメッセージを全世界に向けて発信、東京では東京ドームでミサが開かれて5万人のカトリック信徒が参加した。キリスト教国でもカトリック国でもない日本で、これだけ巨大なミサが開かれるのは、38年ぶりのことである。前回も東京ドームの前身である後楽園球場でミサが開かれているが、「ロックスター教皇」の人気ぶりがうかがわれる。
今回の教皇訪問で特筆すべきことといえば、訪日の直前に正式名称を「法王」から「教皇」に変更すると日本政府が決定したことだろう。バチカン側が長く要請してきただけでなく、私もまたかなり以前から一貫して「教皇」と表記してきたので大いに歓迎している。これでようやく世界史における用法と整合性がとれるようになった。
次のアジア訪問国は中国か?
今回のタイと日本の訪問で、教皇フランシスコのアジアの訪問国は合計8カ国となった。韓国、フィリピン、トルコ、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、日本である。次のアジア訪問国は中国ではないかと推測していると、前回のコラム(「次はどの国? 教皇フランシスコのアジア訪問の意味」)の最後に書いておいた。
バチカンは現在でも中華民国(=台湾)と公式な外交関係を結んでいるが、昨年2018年9月22日にバチカンと中国共産党は歴史的な「合意」を結び、関係改善が大幅に進展している。ただし、合意内容は非公開だ。今回の教皇訪日では、核廃絶の原発廃絶のメッセージに注目が集まっているが、中国共産党との関係改善も教皇にとって大きな政策課題の1つであることに注目すべきである。
もともとバチカンは一貫して「反共」の立場にあったが、冷戦終結後の環境変化のなか、とくに教皇フランシスコの就任後は、教皇自身の姿勢も大きく反映して、共産主義国家に柔軟に対応する傾向が見られるようになった。
世界的に共産党による一党独裁国家はきわめて少数派となっているが、アジアにはまだ依然としてベトナムと中国、そして北朝鮮が残っている。人口1億人のベトナムのカトリック人口は約7%、人口14億人の中国もまたカトリックを含めてキリスト教徒は約0.5億人(非公認の「地下教会」を含めると1億人を超えるとされる)。