とはいえ、対抗宗教改革の一環としてイエズス会が先導した世界宣教によって、カトリックは地球規模で普及し世界宗教となった。教皇フランシスコを排出したアルゼンチンを含む中南米も有力なカトリック地帯だが、やはり信者数は減少傾向にある。一方、現在、増加傾向にあるのはアフリカとアジアだ。中国がいかに巨大な潜在性を秘めたマーケットと見なされているか理解できるはずだ。

 中華人民共和国は、中国共産党が一党独裁で支配する国家であり、たとえ「社会主義市場経済」となったいまも、宗教を否定する共産主義の旗を降ろしたことは一度もない。これは「槌(ハンマー)と鎌」がシンボルの党旗を見たら一目瞭然だろう。旧ソ連や北朝鮮と同じである。

中国共産党の党旗

 しかも、習近平体制になってから、独裁色は一段と高まっている。チベット人やウイグル人に対する過酷な支配、ことに宗教への厳しい締め付けはキリスト教もその例外ではない。礼拝所の閉鎖や破壊、信者のデジタル監視体制が強化されている。

 バチカンは伝統的に反共産主義であり、共産主義を「悪魔」とみなして戦ってきた。そのバチカンがなぜ中国共産党に歩み寄っているのだろうか。疑問は尽きない。ソ連共産党と中国共産党とに、なにか大きな違いでもあるのだろうか?

冷戦を終わらせた「反ソ・反共」のバチカン

 バチカンは、冷戦終結において重要な役割を果たしたプレイヤーであった。不倶戴天の敵であった「共産主義という悪魔」を、ソフトパワーによって打倒することに成功したからだ。第2次大戦後には、国をまたいだ“地下ネットワーク”を使って、アイヒマンを筆頭にナチスの残党を南米に逃亡させた黒歴史も現在では明らかになっているが、ソ連を自壊に追い込んだ功績はきわめて大きい。

 パートナーとしてタッグを組んだのが、プロテスタント国の米国である。冷戦時代には米ソの対立構造だけでなく、バチカンと共産主義国家ソ連との対立構造が存在したのだ。熱烈なカトリック国であるポーランドをはじめ、ハンガリーやチェコが共産圏に入ってからは、バチカンが各国にもつ“地下ネットワーク”が米国にとっては大きな意味をもつようになったのだ。

 そのポーランドから、1978年に初めて教皇に選出されたのが先々代のヨハネ・パウロ2世である。「共産主義は悪魔」という信念を共有するレーガン大統領とヨハネ・パウロ2世の価値観が一致したからこそ、「反共」でタッグを組めたのである。バチカンは、ポーランドを筆頭にして、共産圏の諸国に対して物心両面で支援を行った。

 冷戦終結によって、旧共産圏は資本主義圏に組み入れられたが、その後バチカンは資本主義の暴走に警告を発する立場を強調するようになった。米国流の「新自由主義」が、バチカンとは価値観を異にするものであったからだ。両者の距離は離れつつある。

 さらにバチカンは、近代に確立した「人権」を前面に打ち出し、擁護推進する主体としての存在感が大きくなっている。