「皇太子失脚」という悪夢のシナリオ

 フーシ派のサウジアラビア攻撃は空ばかりではない。現地メディアによれば、サウジアラビア領内に進軍したフーシ派は7月3日、サウジ側のドローンを短距離砲で撃墜し、10日にはサウジアラビア南部のナジャラン近郊に弾道ミサイルを着弾させ、サウジアラビア兵45人を死亡させたとされている。

 2015年3月に開始されたサウジアラビアのイエメンへの軍事介入については、明確な展望や落としどころがなく国際的な非難が高まるばかりの状態が続いていたが、UAEの突然の離脱という事態が生じたことから、サウジアラビアは介入の目的が何も実現できずに撤退を余儀なくされる事態に追い込まれそうである。

 そうなればイエメンへの軍事介入を主導したムハンマド皇太子に対する王族内からの非難が高まり、「皇太子失脚」という悪夢のシナリオが起きてしまうのではないだろうか。

サウジの地政学リスクのインパクト

 イランを巡る地政学リスクは、注目されているものの市場での反応は鈍い。6月の原油輸出量が日量30万バレル(昨年4月は同250万バレル)に減少したイラン産原油の市場へのインパクトはそれほど大きくないからだ。

 だが、日量700万バレルの原油輸出量を誇るサウジアラビアで地政学リスクが高まれば、原油価格は間違いなく高騰する。

 原油価格が高騰すればSPRの放出も「焼け石に水」である。ガソリン価格が上がればインフレ懸念が生じ、米FRBの利下げシナリオに大きな狂いが生じてしまう。

 利下げ期待でバブル化している世界の金融市場に想定外の事態が生ずれば、今年後半の世界経済は大荒れになるかもしれない。