(北村 淳:軍事社会学者)
安倍首相のイラン訪問は、口先だけの平和外交などは国際社会では全く通用せず単なる日本国内向けの茶番外交にすぎないということを、わずかながらも日本国民にさらけ出したという意味において、成果があったものと考えることができる。
現実と遊離したイラン訪問の目的
安倍首相は「イランとアメリカの間の軍事的緊張を緩和させる仲介者となる」といった目的を掲げてイランに乗り込んだ。しかしながらそれはイランをめぐる現状をまったく無視した実現不可能な「日本国内向け」の目的であった。
安倍首相がイランに到着する日の早朝(現地時間で6月12日の午前2時21分)には、イエメンを本拠地にする武装組織「アンサール・アッラー」(フーシ派とも呼ばれる)がサウジアラビア南部のアブハ空港に巡航ミサイルを打ち込み、市民たち26名が負傷した。
イランから支援を受けているとされているアンサール・アッラーの標語は「神は偉大なり。アメリカに死を。イスラエルに死を。ユダヤ教徒に呪いを。イスラムに勝利を」である。反米勢力にとってはまさにトランプ大統領の「手先」とみなされている安倍首相のイラン訪問に先立って、アンサール・アッラーがアメリカに対して一撃を加えたものとみなせる。
そして翌6月13日の朝(現地時間6時ごろから7時前にかけて)、ハメネイ師(ロウハニ大統領も同席)と安倍首相の会談の直前には、オマーン湾のイラン沖合洋上で2隻のタンカーが何者かの攻撃(おそらく吸着水雷によるものと考えられる)を受けた。当然のこととはいえ、タンカー攻撃の「真犯人」はほぼ間違いなく不明のままとなるであろう。イラン側が仕組んだにせよ、アメリカ側が仕組んだにせよ、第三勢力が仕組んだにせよ、黒幕の尻尾を掴まれるような杜撰な特殊作戦であるはずはない。