6月13日、韓国メディアには同じようなタイトルの記事が数十件も並んだ。まるで工場で大量生産したかのような大同小異な記事の内容は、すでに日本に伝えられているとおりだ。この2月、慰安婦問題をめぐって天皇(現上皇さま)の謝罪を言及した韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が、故金大中元大統領の夫人・李姫鎬氏の死去を受け弔問のため韓国を訪問した日本の鳩山由紀夫元総理と昼食をともにした際に、自分のかつての発言について、「心を痛めた人々がいれば申し訳ない」と謝罪した、という内容だ。
鳩山元総理は「合理的考えを持った政治家」
しかし、なぜ日本の皇室や現政権となんらの関係もなく、すでに政界を引退している鳩山元総理に謝罪をしたのか。そして、日本政府の反発にも強硬に自分の所信を曲げなかった彼が、なぜ4カ月ぶりに、それも食事中にいきなり謝罪をしたのだろうか。数十本に及ぶ韓国での記事をいくら精読しても理由が分からない。国会報道官の報道資料をほぼそのまま引用して書いた記事には、何の解説や論評、分析も盛り込まれていなかったためだ。
そこで、韓国のベテラン記者に解説を頼んだところ、次のような推論を聞かせてくれた。
「最近、日本の嫌韓感情が『一線を越えた』との危機意識があちこちで表明されるようになっている。政治はもちろん、経済や人的交流まで中断されたり、もしくは中断されるという懸念の声が上がっている。
特に5月末に訪日した韓国の重鎮議員たちが冷遇を受けた事件は、韓日関係が奈落の底まで落ちている事実を象徴する事件として受け止められている。文喜相議長としては、ここまで悪化した韓日関係に自分の発言が一役買っていることが相当な心理的負担だったのだろう。
しかし、だからといって公式的に謝罪することは、韓国人の国民感情を考えると難しい。鳩山元総理は韓国メディアからは『合理的な思考を持った政治家』と評価されている人物だ。その鳩山氏にかつての発言に対する遺憾の意を表明すれば、韓国人も『屈辱』とは思わない、と判断したようだ。何より大阪G20首脳会談を控えて、日本側から自分の発言(天皇謝罪)を再び取り上げる状況を避けたかったのではないか」