1.「引き渡し」の意味

 筆者に限らず、多くの読者は、北方領土をめぐる交渉は、ロシアに不法に占拠された我が国固有の領土の返還交渉であるので、当然、「引き渡し」でなく「返還」と明記されているものと思っていたであろう。

 しかし、日ソ共同宣言第9項には、確かに平和条約が締結された後に引き渡される、と明記されている。

(1)日ソ共同宣言第9項

 第9項の条文は次の通りである(外務省資料)。

 「日本及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する」

 「ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する」

 「ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」

(2)プーチン大統領の発言

 プーチン大統領は、2018年11月15日、シンガポールでの東アジアサミット後の記者会見で、日ソ共同宣言でソ連が引き渡すとした色丹、歯舞両島について、「(両島の引き渡し後の)主権のことは記されていない」と述べ、2島の引き渡し後の主権については、今後の交渉対象となるとの認識を示した。(産経新聞11月15日)

(3)「引き渡し」をめぐる国会での議論

 共同宣言は、1956年10月19日にモスクワで署名され、同年12月5日に国会承認されている。

 この間の11月12日の衆議院・日ソ共同宣言等特別委員会で「引き渡し」をめぐる議論がなされている。

 長くなるが、当時のソ連の主張や国会・国会議員の当該領土に対する領有権に関する認識が分かるので、次に議事録 をそのまま紹介する。