プーチン大統領は上記の発言以外にもたびたび沖縄の米軍駐留に言及している。一般的には返還後の歯舞、色丹2島への米軍駐留を懸念しての発言とみられている。
しかし、うがちすぎかもしれないが、沖縄返還後に米軍の駐留を合法的に認めるのであれば、同様に返還後の北方領土にロシア軍の駐留を求めてくる可能性がないとは言い切れない。
その時、我が国はロシアの要求に如何に対処するのだろうか。経済活動に対する支援強化のみでロシアが引き下がるとは思えない。
おわりに
既述したが、返還後の主権の問題と北方領土への米軍駐留の問題は、極めて困難な議題である。しかし、これはロシア側が投げたボールである。
日本側がそれ以上の難しいボールを投げ返さないと交渉はロシア側のペースとなってしまう。
「北方領土返還を求める日本の立場は法と正義に基づくものである」といくら唱えてみてもロシアの姿勢は変わらないであろう。
その場合、色丹・歯舞2島の「主権なき返還」により北方領土問題の「最終決着」となる恐れがある。あるいは、北方領土を切り離した日ロ平和条約締結になってしまうかもしれない。
元外交官の宮家邦彦氏は「交渉とは言論による格闘技ですから、物理的腕力の強い奴がつねに勝つ訳ではありません。論理的腕力さえあれば、勝つチャンスは大いに高まるといえるでしょう」『ハイブリッド外交官の仕事術』(PHP文庫)と述べている。
外交当局者の論理的腕力に期待したい。
最後に、筆者の個人的な意見を述べれば、日本政府は、領土問題をまず解決するという「入口論」から、友好関係を発展させ、その結果として将来領土問題の妥協的解決を実現するという「出口論」に交渉方針を転換すべきである。
本領土問題の解決には日米安保条約や米ロ関係が絡む複雑な要素が存在しているため、真に対等な日米関係への転換や米ロ対立の緩和などの国内外情勢の大きな変化を待たざるを得ないであろう。
参考文献:
1:衆議院会議録情報 第025回国会 日ソ共同宣言等特別委員会 第7号
kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/025/0704/02511250704007a.html
2:外務省「日米安全保障条約(主要規定の解説)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku_k.html