2018年11月14日、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議に出席した安倍晋三首相とロシアのウラジーミル・プーチン大統領はシンガポールで会談した。
そして、平和条約締結後に北方4島のうち歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に、日ロ平和条約交渉を加速させることで合意した。
その後、交渉上の駆け引きの一環とみられるが、プーチン大統領から、返還後の主権の問題や北方領土への米軍駐留の問題が提起された。
さらに、2019年1月14日、ラブロフ外相は、日ロ外相会談後の単独記者会見において、次のように述べた。
「日本側が南クリル(北方領土のロシア側の呼称)の島々はすべてロシアに主権があることも含めて、第2次世界大戦の結果をすべて認めることが第一歩である。それについては議論の余地はない」
「(第2次大戦の結果として日本が認めるべきものとして)サンフランシスコ平和条約、その他の文書、1956年の日ソ共同宣言があるが、この宣言はサンフランシスコ平和条約とともに、第2次世界大戦に関する最終的な枠組みを構成する唯一、全体的なものである」
「さらに重要な文書がある。それは国連憲章である。107条では、第2次大戦の結果を認めるよう書かれており、確固たるものとして、連合国が正式に作成したものである」(ハフポスト1月14日)
ラブロフ外相の発言を要約すると、「過去の歴史的経緯はどうであれ、北方4島は大戦の結果としてソ連領になったのであり、その法的根拠は、関連する歴史的文書、なかんずく国連憲章107条である」と主張しているのである。
以下、初めに北方領土に関連する歴史的文書について述べ、次に歴史的文書に関する日ソ両国の認識の違いを述べる。本稿が日ロ平和条約交渉を理解するための資となれば幸いである。