ところが、米国が色丹・歯舞2島への米軍の駐留を要求してきた場合、日本政府には、それを拒否する権限を有していない。
日米安保条約は、米国が日米安保条約の目的のために必要だと判断したら、日本の領土のどこにでも部隊を配置することができる「権利」を米国に付与している。
そして、唯一事前協議という制約を設けている。
従って、この問題の解決策の一つは、北方領土への米軍の配置を規模にかかわらず事前協議の対象とすることである。
上記の外務省の資料によると、事前協議の対象となる陸上部隊の配置における重要な変更とは一個師団程度である。すなわちこれより小規模の陸上部隊の駐留は事前協議の対象とはなっていない。
歯舞群島(95平方キロメートル)、色丹島(252平方キロメートル)は、小さな島であり、一個師団の受け入れ能力はなく、多くても数個大隊程度であることから、現状では米国は事前協議なしに北方領土に小さな部隊を配備することができることになっている。
ゆえに、事前協議において米国の要求を拒否できるかどうかは別にして、北方領土への米軍の駐留を規模にかかわらず事前協議の対象とすべきである。
これには、「条約第6条の実施に関する交換公文」の見直しが必要となる。
この見直しは米国の同意が必要となる。なし崩しになることを恐れる米国は、「条約第6条の実施に関する交換公文」の例外規定の設定は受け入れられないと強く拒否するかもしれない。
そのうえ、たとえ見直しに成功したとしても、ロシアがそれを受け入れるとは限らない。その場合は、米ロ間の何らかの協議・合意が必要となるであろう。
このように、北方領土への米軍駐留の問題は、日米安保条約や米ロ関係が絡む極めて難しい問題である。従って、この問題の解決には、外交当局者の並々ならぬ努力が必須となる。
さらに厄介なことは返還後の領土にロシア軍の駐留をロシアが要求してきた場合の対処である。