失敗との向き合い方
保線作業と事故分析の連携は、研修日程にも表れている。
一行は2週間の滞在中、前述のレール交換や軌道検測の実習を体験したり、砕石や枕木、そして線路を分岐させるための分岐器の工場を視察したほか、JR東日本が2002年に福島県白河市に開設した「事故の歴史展示館」も訪れた。
前出の鶴見事故や三河島事故をはじめ、国鉄時代からこれまで社内外で発生した重大事故25件の原因と対策がパネルで紹介されているこの展示館は、同社の社員に事故の怖さや社会的影響の大きさを体験して安全への意識を高めてもらうために活用されている施設で、普段は一般公開されていない。
しかし、今後ミャンマー経済が発展していくと共に、日本が計画している円借款などによって鉄道システムの改良が進み列車の走行速度や本数が飛躍的に拡大すれば、脱線事故の被害も今より甚大なものになることは明白である。
そう考えると、日本の過去の“悲劇”や“失敗”が保全されたこの展示館を訪れた研修員たちや、長年、日本の軌道の第一線を率いてきた黒田氏ら専門家チームからセミナーで直接話を聞くことができた出席者たちが、今、この段階で事故との向き合い方を学ぶことができた意義の大きさを、一層かみしめずにはいられない。
事故は、起こらないにこしたことはない。しかし、いったん起こってしまった事故を人的要因、構造的要因共に徹底的に調べ、今後の安全対策に生かしてこそ、安全・安定輸送を実現し、システムを進化させることができる。
「事故に学ぶ」。日本の鉄道協力によって、機材の供与やインフラの整備にとどまらず、こうした姿勢とマインドも共にミャンマー国鉄に受け継がれ、醸成されることを期待したい。
運営含めたトータルな支援に期待
1954年生まれ。ミャンマー陸軍准将として任官後、エネルギー省副大臣に就任。2010年5月、国軍を退役し、同年11月に総選挙に参加。翌11年、連邦議会の承認を得てエネルギー大臣に。13年7月より現職
以下は、2014年5月、太田昭宏国土交通相の招へいにより来日したミャンマー鉄道運輸相のタン・テー氏へのインタビューをまとめたもの。
タン・テー ミャンマーでは、英国統治下の19世紀のうちに幹線となる鉄道がほぼ完成していたが、1988年以降、特に地方部において新線の建設を急速に進めたこともあり、現在、総延長距離は5800kmに上っている。
全国7州の中で、いまだに鉄道ネットワークがつながっていないのはチン州だけだ。地方部や、州を越える長距離移動の際には、鉄道を利用する人々も多い。
しかし、毎日400路線が運行しているにもかかわらず、ほとんどの路線は収益が上がっていないか、あるいは赤字の状態である。