JR東日本の技術訓練センターで保線技術について学ぶ(写真:JIC)

 梅雨明け目前のじっとり湿った空気と容赦ない日差しの下で、皆の表情は、真剣そのもの。金属同士のぶつかる音が鳴り響く。

 ふと、以前訪れたミャンマーの保線現場の様子が蘇ってくる。

 この実習は、研修員たちにとって、ただ保線作業の手順や方法を学ぶだけでなく、それぞれの管区で行なわれている方法を比べたり、自分たちの管区の鉄道が置かれている状況を冷静に振り返るきっかけになったようだ。

 研修参加者を取りまとめるチームリーダーのソーミンアウン氏は、23年前にミャンマー国鉄に入り、現在はシャン州南部の線路補修を指揮している。

 同氏はシャン州の鉄道について、「山がちであり、勾配やカーブ、トンネルが多いために事故の発生が多い」とした上で、「レールの締結が悪く、バラストの量も少ないため、いつも保線作業に追われている」と話す。

 また、バゴー地区の保線作業を管轄しているチョーテッゾー氏にとっては、訪日中に訪れた工場で、「一つひとつの作業を丁寧に行えば、その後のメンテナンスがかなり楽になり、事故も減少する」という言葉を聞いたことが大変印象的だったという。

 同氏は、「日本には、締結を緩めた後のレールを持ち上げるための山越器のように、ミャンマーにはない装置もあるし、違いを比べても意味がない」とした上で、「両国の一番大きな違いは、日本ではたとえ枕木1本の交換やバラストの突き固め作業であっても作業前と作業後にきちんと計測を行い、丁寧に作業を行うが、ミャンマーではとにかく早く作業を進めることを重んじるという点だ」と話す。

 その上で、「鉄道を真の意味で発展させるためにはクオリティーの高い作業を丁寧に行うことが重要であり、こうした地道な取り組みがあってこそ事故の減少につながることを知った。ミャンマーに戻ってから、みんなにぜひ伝えたい」と力強く語るチョーテッゾー氏。

 その言葉からは、同氏がこの研修を通じて鉄道システムの「質」の重要性を認識し、自分たちの取り組み姿勢を変革すべきことを認識した様子が伝わってくる。

ネピドーで開かれた2週間のセミナー終了後は1人1人に修了証が手渡された(撮影:JIC)
「地道な作業の積み重ねが事故を防ぐことを知った」と話すチョーテッゾー氏(筆者撮影、以下同じ)