鉄道の利用客に聞き取り調査を行うミャンマー国鉄の職員(撮影:日本コンサルタンツ(JIC))

脱線や遅延の原因を分析

 1年間に650件以上。ミャンマーを走る鉄道で発生する衝突や脱線などの事故件数だ。特に地盤がゆるむ雨期には脱線が多い。いったん脱線すると、復旧まで5~6時間遅れることも珍しくない。

 そんな事故の事例を集めて分析し、今後の鉄道政策に生かそうと、JR出身の仲間たちとチームを組みミャンマー国鉄側に呼び掛けた男性がいる。日本コンサルタンツ(JIC)技術本部特別顧問の黒田定明氏だ。専門は保線。

 国鉄時代は、東海道新幹線の整備にかかわったのを皮切りに、研究所に所属しながら東北新幹線や青函トンネルの軌道の設計業務に従事した。その後、ボストンにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学したり、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の鉄道課に出向した経験もある国際派だ。

 海外鉄道技術協力協会(JARTS)を経て、現在は、安全性とサービス面共にさまざまな問題を抱えているミャンマー鉄道の改修と、短期、中期、そして長期の整備計画の策定に向け、JICAが実施する技術協力の先頭に立っている。

 2014年2月、黒田氏らの呼び掛けに応え、ミャンマー国鉄の車両技術者や信号技術者、運転専門家、保線技術者ら19人が首都ネピドーに集まった。

 彼らは、黒田氏ら日本人専門家チームと一緒に列車に乗り、振動計を使って揺れを客観的に測定したり、列車の乗り心地や乗務員の接客など旅客輸送サービスに関する感想や要望について、のべ360人の乗客からヒアリングを実施。

 これまで、列車の走行状態を把握するために、せいぜい線路のゆがみを目視することぐらいしかしてこなかった彼らにとって、どれも初めての経験だった。