安全性とサービスの両輪
黒田氏らはなぜ、自らミャンマー鉄道の事故の記録を分析し、改善項目をまとめて提出するだけでなく、ミャンマー国鉄の職員たちにも事故分析作業に参加を呼び掛けるのか。
その理由は、安全を誇るわれわれ日本の鉄道も、これまで数々の痛ましい事故を経験しては、そのたびに原因を分析し、鉄道システムの技術革新や、安全性を維持する仕組み・ルールを発展させてきた歴史があるためだ。
「あぁ、また脱線した」と、事故に慣れっこになるのではなく、一つひとつの事故に注目して背景を分析し、そこに隠れているメッセージを受け取って、より良い整備へとフィードバックできるようになってほしい――。黒田さんたちのこだわりには、そんな思いがある。
実は、以前ご紹介した保線作業の技術移転(第4回参照)と今回の事故分析は、ミャンマー鉄道の安全性向上と運行の質改善を目指す「鉄道安全性・サービス向上プロジェクト」の、いわば両輪となる取り組みである。
前者は、脱線や遅延の最大の原因である軌道を改良すべく、上下に大きく波打つレールを交換したり、路盤と枕木の間の砂利が不足している箇所の補修を行ったりしている。
一方、後者は軌道に加え、橋梁などの構造物や車両、信号、運転などの専門家が、それぞれの観点から事故の原因をミャンマー人と一緒に分析したり、各種基準のレビューを行っている。
「立って見てない」「バールで締結装置を緩めたら、手袋をして手でゆるめる」「早く動かないと電車が来ちまうぞ」「返事をしろ」
2014年7月頭、東京・品川にあるJR東日本の技術訓練センターに大きな声が響き渡った。
ミャンマー国内の11の管区で現場の責任者を務めている国鉄の職員11人が前出のプロジェクトの一環で来日し、2kmにわたる実習用線路の上で、締結装置を緩めて古いレールを外したり、遊間生成装置を使ってレールの継ぎ目部分に遊間(隙間)を作り、新しいレールをはめてまた締結する作業に汗を流している。