保線作業の手を止め列車を見送る技術者たち。運転手がエールの代わりに汽笛を鳴らした(筆者撮影、以下同)

6時間の旅路

 朝5時過ぎ。まだ日が昇る気配のまったくない暗闇をぬって車が走り、オレンジ色の街灯に浮かび上がるマンダレー駅舎の前で停車した。

 ドアを開けた途端、ざわざわとした活気が車の中まで入り込んできた。パンや果物、新聞などが入ったカゴをかついだ物売りや、列車を待つ乗客など、想像以上のにぎわいを見せる駅構内は、早朝とは思えないほど騒然としている。

 「ピンポンパンポーン」というお馴染みの音と共に時折流れるアナウンスは、今日の運行予定を告げているのか、それともスタッフや乗客の呼び出しか。列車が発車する6時までまだ30分以上もあるというのに、ホームには列車が入線し、いち早く乗り込んだ乗客が窓に鈴なりに顔を並べ、ホームを眺めている。

 彼らの視線に半ば気押されながら、前日に窓口で買っておいた乗車券を握りしめてホームを歩き、指定された2号車「4E」の席に座った。屋根からぶら下がっている白くてチカチカ点滅する蛍光灯といい、大声で交わされる会話といい、昔映画で見た戦後日本の引き揚げ列車のようだ。

 「ネピドーまで鉄道に乗る? 物好きだねぇ」「あばれ馬に乗っている気分が味わえるよ」「日が暮れる前に着けばラッキー」――。前の日にミャンマー人何人かに言われた言葉が脳裏によみがえり、心細さに思わずこぶしを握りしめた。