ここは、2013年8月から日本の技術協力で実施されている保線管理技術の指導現場だ。長年、JR東日本の各地で保線の現場に立ってきた経験を持つ鉄道技術者たち7人が、2週間から1カ月ずつ日本から交代で派遣され、毎朝ここに通いミャンマー鉄道の技術者たちに実践を通じて保線技術を伝えている。

 日本語とミャンマー語を通訳する女性も1人いるのだが、作業があちこちで同時に進むため、とてもすべては訳して回れない。自然、身振り手振りの体当たり指導があちこちで繰り広げられることになる。

 ジェスチャーまじりで「ほら、ここ、線路がむき出しになってるっしょ。ある程度砕石を入れてジャッキアップせねばダメだ」と東北なまりの日本語で日本人技術者が声を掛けると、ミャンマー人技術者たちがちゃんとスコップを握り砕石をすくい始めるのが面白い。

 ミャンマー鉄道で維持管理業務を担当するチョンロンナイ氏が「私たちの鉄道をより良くするために日本の専門家に技術を教えてもらいながら働けるのは嬉しい」と言えば、日本人技術者たちも「毎日一緒にやっていると関係ができてくるから、言葉が通じなくてもジェスチャーで何とかなるのさ」「ミャンマー人は、言えばきちんとやる。働くことに非常に真面目だ」と目を細める。

 このプロジェクトを率いる日本コンサルタンツの小松博史・技術本部部長は、「これこそが技術協力の真骨頂」だと胸を張る。2014年5月には、ミャンマー鉄道の技術者の中から十数人を日本に招き、保線作業を見てもらった。

 日本の研究機関も意欲的だ。運輸政策研究機構の国際問題研究所(JITI)は2013年3月、ミャンマー鉄道の近代化に向け提言書を提出。さらに、ミャンマー鉄道運輸省に対し、保線作業に使うハンドタイタンパー4セットや発電機、ジャッキなどを贈呈した。

 同年11月27日に開かれた贈呈式には、ミャンマー鉄道運輸省のタン・テー大臣をはじめ、日本大使館の丸山市郎公使、鷲頭誠JITI所長らが出席。

 JITIの石谷俊史主任研究員は、「提言しただけでは、“機材がないからできない”で終わってしまう。今回、具体的な支援につなげられたことで、日本の鉄道支援が広がる1つのきっかけになったのでは」と話した。

 贈呈されたタイタンパーなどの機材は、前出の保線指導の現場で翌日からさっそく活用されている。

保線機材の贈呈式で握手するミャンマー鉄道運輸省のタン・テー大臣(左)と鷲頭誠JITI所長
贈呈されたタイタンパーのデモンストレーションの様子