日本の鉄道力とは
2013年12月15日、安倍晋三首相は日・ASEAN特別首脳会議のために来日していたミャンマーのテイン・セイン大統領と会談し、インフラ整備を中心に総額約630億円の円借款供与を表明した。
鉄道については、前出の南北幹線約600km区間の改修を行う。同案件には後発開発途上国(LDC)向けに新設されたLDCパートナー型借款(JUMP)が初めて適用される。これは、応札資格を日本と当該LDC企業の共同企業体に限定する制度だ。
しかし、こうしたレールの改修や車両の納入、信号機システムの改良を巡っては、欧州勢はもちろん、中国、韓国、インドなど新興ドナーも参入機会を狙い早くもしのぎをけずっており、日本企業も厳しい競争を迫られることは必至だ。
しかし、定時性・安全性を実現してきた日本の「鉄道力」を現場の最前線で支えてきた技術者たちが、直接そのノウハウを教え伝える冒頭の保線指導のように、日本の支援にはユニークな強みがあるのは確かだ。
近年は保線作業も機械化され、こうしたアナログな作業は日本でほとんど行われていないため、開発途上国や新興国で現在求められる技術を指導できるのは、かつて手作業の時代を経験しているシニア層に限られるという。
しかし、こうしたニーズに応え日本が誇るソフトパワーを伝授できる人材の喪失は、日本としても決して望ましいことではない。
そのため、最近、日本の鉄道事業者は日本コンサルタンツに若手技術者を出向させ、インターンとして開発途上国に派遣し、現地の人々と共に日本のシニア技術者から学ばせるという人材育成を検討しているという。「リバースイノベーション」ならぬ「リバース人材育成」。実に興味深い。
日本政府、援助機関、鉄道事業者、メーカー、コンサルタントが一丸となり、円借款、無償資金協力、技術協力を総動員して計画段階から実施まで支援する方針を打ち出しているミャンマー鉄道は、今後、どのように再生に向かい進んでいくのか。
線路の改良が完成し、ヤンゴン~ネピドー~マンダレー間の所要時間が、現在の約半分になると言われている2025年。その暁には、ぜひまた乗り心地を試してみたい。
(つづく)
本記事は『国際開発ジャーナル』(国際開発ジャーナル社発行)のコンテンツを転載したものです。