(文星芸術大学非常勤講師:石川 展光)
主人公は1000年以上生きているエルフ
「いつまでも いつまでも しあわせにくらしましたとさ めでたし めでたし」
お伽話はこう締め括られるのが定番である。しかし、シンデレラは、人魚姫は、ピノキオは、浦島太郎は、その後どうなったのだろうか。節税に躍起になったり、クーデターに怯えたり、EDになったり、更年期障害に悩まされたりしないんだろうか。しないのでしょうね、いつまでも幸せに暮らしたのだから。
いや、それはない。人生とは「重き荷を負ひて遠き道をゆくが如し」である。ファンタジーであろうとなんだろうと、そこまでお目出度くはないのである。
今や人生100年時代。巷では定年後の憂いを抱え生きる人で溢れている。長生きは幸福と直結しないのではないか、とつい考えてしまう。
大人になると時が経つのを早く感じる理由を説明するものに「ジャネーの法則」がある。分子を1年として、分母を年齢とする数が、その年齢の1年分の時間の速度というものだ。
私は48歳。満1歳の赤ん坊に比べて48倍の速さに相当するわけである。
今回紹介するのは『葬送のフリーレン』である。原作は山田鐘人、作画はアベツカサ。現在『少年サンデー』(小学館)に連載中で、コミックスは現在13巻まで刊行、累計部数2200万部を突破している。2021年に第14回マンガ大賞、第25回手塚治虫文化賞新生賞、2024年に第69回小学館漫画賞(2023年度)、第48回講談社漫画賞受賞と近年の大ヒット作で、TVアニメの二期制作も決定した。
主人公フリーレンはエルフという種族で、平均寿命は2000年くらいらしい。今フリーレンの御歳はじつに1000年と少し。つまりエルフにとって人間はどんなに長生きしても5歳までしか生きられないような存在なのである。
ここまでくると、人びとの営みは取るに足らぬものに思え、その膨大な情報量(思い出)に唖然とするはずである。だからなのかは解らないが、フリーレンは凄く達観したようにも、ただ呆然としているようにも見えるキャラクターとして描かれている。