冒険の終わりから始まる物語

 物語はいきなり「冒険の終わり」から始まる。勇者一行が魔王を倒して、世界に平和を取り戻した後の、いわゆる後日譚をメインシナリオにしているのだ。そして序盤で、フリーレンを遺してニンゲンである僧侶ハイターと勇者ヒンメルは他界する。そこから物語は始まるのである。

 魔王を倒す旅は10年にも及ぶものだったが、エルフの1年は、ニンゲンの20年。フリーレンにとってみれば、たった半年くらいの出来事なのである。人間はあまりに早く死に、自分しか残れないので、思い出なんか遺すものじゃない。この悲しく切ない感覚の違いが、この物語の主軸だ。

 また、登場するキャラクターが、揃いも揃って高倉健ばりに不器用なのである。主人公であるフリーレンは、表情も乏しく、共感性に疎く、一切空気を読めない。1000年以上も生きている割と自己中で、まかり間違っても人生相談などできないタイプである。いや、1000年以上も生きているから、なのか。

 登場人物の多くは「人の気持ちが解らない」と責められることが多く、早い段階で心を閉ざしてしまう傾向がある。確かに、フリーレンもそうだ。だがフリーレンは1000年以上も生きねばならない定めに生まれた者であるため、いちいち気を遣ってはいられないのである。