ヤンゴンと対岸のダラ地区を結ぶフェリーは1日約3万人が利用する。日本の無償資金協力によって、2014年秋より新しい「チェリー号」が3隻就航している(撮影:『MYANMAR JAPON』北角裕樹・統括編集長)

新たな国の「青写真」

 再びミャンマーに話を戻そう。この国がかつての栄光と存在感を取り戻すために必要なのは、再び差し始めた光に安易に踊らされることではなく、傷跡の深さを冷静に分析した上で、実態に基づいた国家発展の青写真を持つことではないか――。

 そんな視点に立ち、この国では現在、国家計画の策定支援が進んでいる。

 ASEAN加盟10カ国に日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた東アジア16カ国の合意に基づき2008年にインドネシア・ジャカルタに設立された国際機関「東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)」は、日・ASEAN統合基金を活用し、2011年より総合開発調査を実施。

 前出の工藤氏もアドバイザーとしてかかわっている同調査では、省庁ごとの縦割の壁が高く国全体として優先的に取り組むべき戦略的な上位計画を策定することがまだ困難なミャンマー政府に対し、セクターを越えた産業化の推進と外貨の導入に向けた計画作りの支援が進められている。

 また、政府開発援助(ODA)を通じたグランドデザイン作りも進行中だ。

 例えば、外資の進出判断を直接左右する運輸交通インフラ。国家経済の発展にも大きな影響を与えるだけに、モードを越えて全土を見渡し、どこにどんなインフラを整備すればどんな産業が集積され外資を効果的に呼び込めるか鑑みつつ、戦略的かつ計画的に整備を進める必要がある。

 特に、タイ、中国およびインドと国境を接し、インドシナ半島を横断する東西・南部の2本の経済回廊とインド経済圏をつなぐ位置付けにあるミャンマーにおいて運輸交通インフラをどう整備していくかということは、この国のみならず、地域全体の将来にとって非常に重要な問題だ。

 そこで国際協力機構(JICA)は2012年末より「全国運輸交通プログラム形成準備調査」を通じて、その「戦略」となるマスタープランの策定を支援。いくつかの事業については、フィージビリティーの確認も行われた。

 また、同じく2012年8月からは、人口の1割以上が集中する国内最大の商業都市ヤンゴンと、周辺の6つの行政区を合わせた都市圏の中・長期的な発展に向けた「ヤンゴン都市圏開発プログラム形成準備調査」も実施された。

 同調査でさまざまな都市開発のニーズを把握した上で、都市交通、上下水・都市排水、廃棄物管理、電力、物流、情報通信などの各分野について社会基盤インフラの整備計画の策定と優先プロジェクトの事業化も進められている。

 関係者の間では、「1カ月前の情報はもう古い」と囁かれるほどめまぐるしく変化し続けるミャンマー。方向を誤ればエネルギーが分散し、無意味な渦が発生するだけの勢いを、どうすれば骨太の水流にし、安定した国づくりを実現できるのか――。

 調査力に定評のある日本の支援の面目躍如を期待しつつ、二人三脚でグランドデザイン作りに取り組む両国の人々を追う。

(つづく)

本記事は『国際開発ジャーナル』(国際開発ジャーナル社発行)のコンテンツを転載したものです。