「ロボット大国」のために日本が取るべき3つの戦略

 第1の戦略は、「現場」を武器にすることだ。

 日本が世界に誇る最大の資産は、製造や物流、建設、介護といった多様な現場そのものである。これらの現場で日々蓄積される運用ノウハウやデータは、机上のシミュレーションだけでは得られない「暗黙知」の宝庫であり、現実世界が活動の舞台となるフィジカルAIの領域では、まさにそれが勝負のカギを握る。現実世界の複雑さに対応する中で磨かれた知見は、他国には模倣困難な競争力となり得る。

 第2の戦略は、社会課題の解決で先行することだ。

 高齢化や労働力不足、介護人材の枯渇といった社会課題は日本が先行し、かつ世界で最も深刻に直面している問題である。見方を変えれば、フィジカルAIへの巨大な国内需要があるということでもある。介護、物流、農業、建設といった領域で世界に先駆けて解決策を確立できれば、それをグローバル標準として輸出できる可能性がある。「課題先進国」を「ソリューション先進国」に転換するチャンスだ。

 第3の戦略は、ハードとソフトの統合で差別化することだ。

 当然の話だが、日本がこれまで磨いてきたハードウェア技術を捨て去る必要はない。それを活かし、ソフトウェアと高度に融合させるのである。精密な「身体」と優れた「知能」が一体となったシステムは、安価な汎用ロボットとは異なる価値を提供できる。

 PFN(Preferred Networks)が掲げる「AI技術のバリューチェーンを構成するAI半導体、計算基盤、生成AI基盤モデル、ソリューション・製品という4つのレイヤーすべての技術を自社で開発」するという垂直統合モデルは、その理想形のひとつだろう。

 これらの戦略を実行するには、土台の整備が欠かせない。産学連携の強化、研究成果を迅速に商業化するインキュベーション機能、そして人材戦略だ。

 本連載でも取り上げたSakana AIは、創業から1年未満でユニコーン企業となったが、応募者の3分の2が海外出身者だったという。日本にも世界の人材を惹きつけるポテンシャルはある。報酬制度の改革、英語を含む多言語環境の整備、ビザの柔軟化など、多面的な施策を組織的に進める必要がある。

 ここまで見てきたように、フィジカルAIの登場は日本にとって大きな挑戦であると同時に、新たな機会でもある。正しい方向転換ができれば、日本は「ロボット大国」の称号を維持できるだろう。

 モルガン・スタンレーは、2026年もヒューマノイドロボット市場への関心が続くと予測する一方、「踊るロボット(展示会で派手なデモを見せるだけのロボット)」と「実用化可能なロボット」の間には大きな溝があると警告している。技術的な課題、製造上のハードル、スタートアップの淘汰により、業界は近い将来「リセット」を経験するかもしれないというのだ。

 だからこそ、今が分岐点と言えるだろう。中国企業は年間数千台規模でヒューマノイドを出荷し、米国企業は数百億ドル規模の投資で技術基盤を固めている。日本がここで適切な手を打たなければ、世界からの後れは取り返しのつかないものになりかねない。

 過去の成功体験に安住することなく、新しいゲームのルールを理解し、果敢に行動すること。それがいま、日本のビジネスリーダーたちに求められている。

小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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