日本が築いてきた「ロボット大国」としての現在地
まず、日本の現在地を確認しておこう。日本のロボット産業は単体の製品の成功物語ではない。それは製造業全体の競争力の源泉であり、国の戦略的資産だった。
産業用ロボット(工場の生産ラインで溶接や組み立て、搬送などを手がける機械)の世界市場で日本企業の存在感は圧倒的だ。
業界分析によれば、ファナック(FANUC)が世界シェア約17%でトップを走り、安川電機が約12%で続く。両社だけで世界市場の約3割を占める計算だ。これに川崎重工業、三菱電機、デンソーなどを加えれば、日本は間違いなく産業用ロボットの中心地である。
2023年時点で日本は世界のロボット生産の約25%を担い、国際ロボット連盟(IFR)の最新発表によれば、産業用ロボットの世界市場規模は167億ドル(約2.6兆円)と過去最高を記録している。
日本企業の強みは、長年かけて磨き上げたハードウェア技術にある。
ファナックのロボットが誇る±0.02mm(髪の毛の太さの約4分の1)という再現精度は、同じ動作を何万回繰り返しても誤差がほとんど生じないことを意味する。24時間稼働する過酷な工場環境でも故障率は極めて低く、「止まらない」信頼性が日本製ロボットの代名詞となってきた。
精密なセンサー、高性能モーター、それらを統合する制御技術──。こうした要素技術の蓄積が製品全体の競争力を支えている。
この優位性は一朝一夕に築かれたものではない。1973年に早稲田大学が世界初の本格的な人型ロボット「WABOT-1」を開発し、2000年にはホンダが二足歩行ロボット「ASIMO」を発表して世界を驚かせた。地道な研究開発の積み重ねが、今日の地位の礎だ。
もっとも、この卓越したハードウェア技術という遺産は、フィジカルAIがもたらす新たな競争軸の前で、今まさに真価を問われている。「いかに正確に動くか」から「いかに自分で考えて行動するか」へ、競争の本質が根本から変わりつつあるのだ。