ソフトウェアとデータで変わるゲームのルール

 フィジカルAIの登場は、ロボット産業の競争原理を根底から覆しつつある。

 従来の産業用ロボットは、人間が事前にプログラムした動作を忠実に繰り返す「高性能な道具」だった。溶接ロボットは決められた位置で決められた動きをする。部品の位置が数ミリずれれば、ロボットはそれに対応できない。人間がプログラムを書き直す必要があった。

 フィジカルAIは違う。カメラで見て、状況を理解し、自分で判断して動く。部品の位置がずれていれば、自分でそれを認識して調整する。「こうしろ」と細かく指示しなくても、「この仕事をやってくれ」と伝えれば、自分でやり方を考える。いわば「自分で考える労働者」だ。

 この変化について、NVIDIAの創業者兼CEOであるジェンスン・フアンは今年1月、こんな言葉で表現している。「The ChatGPT moment for robotics is here(ロボティクスの“ChatGPTモーメント”が来た)」。

 つまり、言語AIによってチャットボットが一気に普及したように、現実世界を理解し、推論し、行動可能な「フィジカルAI」の登場により、ロボットも汎用化・実用化が加速し、産業導入が急拡大する転換点に入ったという見解である。

 この変化に関係する技術は、日本が得意としてきたハードウェアとは異質なものだ。GPT-5.2やGemini 3のような高度なAIモデル、膨大なデータを使った機械学習、シミュレーション環境での訓練技術──。こうしたソフトウェアとデータが、新時代の競争力を左右する。

 この新しいゲームで、米国は圧倒的な存在感を示している。

 OpenAIの企業価値は一時8300億ドル(約126兆円)に達し、AIインフラへの投資は1兆ドル(約158兆円)規模にのぼる。Figure AIは前述の通り、世界的自動車メーカーであるBMWの工場で実証実験を開始しており、既に1250時間以上の実働を記録し、3万台以上の車両の製造に携わったという。

 NVIDIAのシミュレーション技術「Omniverse」は、現実世界を忠実に再現した仮想空間でロボットを訓練することを可能にしている。世界中から優秀なAI人材が集まり、潤沢な資金がイノベーションを加速させる。米国のエコシステムは盤石だ。

BMWの工場で働くFigure AIのヒューマノイドロボット

 一方、中国は全く異なる戦略で急速に台頭している。