フードデリバリーの仕事をさせてみると、AIの弱点が見えてくる(筆者がChatGPTで生成)
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(小林 啓倫:経営コンサルタント)

AIはどこまで仕事を奪うのか?

「新しい技術に仕事を奪われるかもしれない」という懸念は、近代以降、私たち労働者の間で常に抱かれてきた懸念だと言える。しかしその懸念が、今ほど強く感じられている時代はないのではないだろうか。その原因はもちろん、AIの急速な進化だ。

 WEF(世界経済フォーラム)が2025年に発表した報告書によれば、AI によってある業務が自動化できる場合、企業の40%は従業員の削減を検討するという。この報告書は、AIと情報処理の進化によって、米国内で約900万人分の雇用が失われると予測している(一方で、新たに約1100万人分の雇用が創出され、全体としては約200万の純増と予測しているが、だからといって解雇される側にとっては安心できる話ではないだろう)。

 実際に、ロイターが12月4日に報じたところによると、米国では2025年に入ってから、AI関連を理由としたレイオフ計画が5万4694件にまで達しているそうだ。

 こうした最新の「テクノロジーの進化による雇用減少」の特徴は、なんといってもホワイトカラー層への影響が大きいことだ。AIが進化したことで、考えて作業する仕事、すなわち従来であれば機械に奪われることはないと思われていた仕事も安全ではなくなっている。

 たとえば、前述のWEFレポートによれば、今後5年間で最も減少すると予測される役割は、事務系の職種に集中している。

 具体的には、レジ係やチケット販売員、銀行の窓口係、データ入力係、在庫や出荷を記録する事務職、郵便窓口職員、会計・簿記・給与計算の事務、秘書・アシスタントなどが大きく縮小するとされる。また、コールセンターのテレマーケター、クレーム処理担当者、保険の査定担当、グラフィックデザイナーや印刷関連の技能職、清掃・ビル管理などの職種も減少が見込まれている。

 これらの職種で共通しているのは、定型的で繰り返しの多い事務処理や、単純な情報の受け渡しに依存している点だ。レポートでは、AIやロボットといった自動化技術・システムの普及が、こうした作業が人間の手から奪われていく主因だと指摘している。

 加えて、先進国での高齢化や成長鈍化もコスト削減と効率化を後押しし、まずはルーティン業務から人員削減が進むと見込まれている。つまり「人間ならでは」の判断や対人スキルをあまり必要としない事務系の役割が、もっとも強く縮小圧力を受けるという見立てだ。

 以上のような「AIによる事務職減少の懸念」は、最近では共通認識になりつつある。それでは、もっと幅広い職業にまでAIが進出する可能性はあるのだろうか。この点について、実験を通じて考察された興味深い研究が発表されている。例として取り上げられた職業は、なんと「フードデリバリー配達員」だ。