ア・リーグ球団の極東担当スカウトは、このように指摘している。

「大谷は素晴らしい。ただ、象徴になり過ぎた。本音を言えばリーグは、もっと“多中心”で回っていたはずだ」

 この「“多中心”で回りたい」という感覚こそが、次のWBCに向けた「米国の本気度」を裏で支えている。今回の米国代表がスター選手をこれほど呼び込めている背景には、選手側の名誉欲やリベンジ的な感情だけではなく、MLB側の構造的な後押しがある――。そう見る関係者は少なくない。

米国以外も「最強軍団化」

 もちろん、表立った「通達」が出ているわけではない。だが選手が出たいと言うなら、所属球団側も「過剰に止めない」。あるいは球団側が止めるにしても正面から対立するのではなく、投球回数・登板間隔・移動負担などの「条件闘争」に落とし込む。そうした温度感が米国内に共有されている、という証言は散見される。

 こうした空気の変化は、米国代表だけに起きているわけではない。ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ、カナダ――。各国が来春のWBCでの「最強軍団化」へ向けて舵を切り始めた。これは競技レベルの自然な上昇というより、WBCという商品を“世界仕様”にするための構図と考える方こそ筋が通る。

 つまり米国側、ひいては大会組織「WBCI」を運営するMLB機構側としては、ロブ・マンフレッドコミッショナーが大会意義を問われて口にした「WBCは日本だけが熱狂する大会ではない。世界のスターたちが一つの国際大会で競う場所だ」という言葉こそが“総意”なのだろう。そして、その「世界の顔」をもう一度米国代表が取り返す――。それが、米国の本気モードの根幹にある。