前回WBC決勝は「米国はただ負けただけじゃない、象徴を奪われた」

 全ての起点は2023年3月、米フロリダ州マイアミのローンデポ・パークで行われた第5回WBCの決勝戦にある。米国代表は決勝の舞台で侍ジャパンと激突し、1点をリードされて迎えた9回表二死走者なし、最後の打者として2番打者のマイク・トラウト(エンゼルス)が打席に立った。

 マウンドに立っていたストッパーは当時エンゼルス所属でチームメートだった二刀流・大谷。結果は、魔球スイーパーによって空振り三振。象徴的すぎる幕切れだった。

2023年3月22日、第5回WBC決勝の米国戦で、9回2死で打席に入ったトラウトを空振り三振に仕留めて優勝を決め、ガッツポーズする大谷翔平。日本中が歓喜に包まれた瞬間だ(写真:共同通信社)

 あの場面が世界に与えた絶大なインパクトは、単なる優勝決定の瞬間ではない。「世界一が日本である」という事実以上に米国側に突き刺さったのは、あの9回が“物語の主役”と“ベースボールの所有権”を奪い取ったという点だろう。

 かつてヤンキースで一時代を築き、闘争心あふれるプレーで「ウォリアー」の異名を持ったレジェンドOBのポール・オニール氏は当時の模様を振り返りつつ、こう語っている。

「米国はただ負けただけじゃない。象徴を奪われた。ベースボールの顔が大谷になった瞬間だった」