クオモと対照的だった発信スタイル

 ニューヨーク市長選に限らず、従来の選挙キャンペーンではメディア戦略の主軸はテレビCMやラジオ、新聞広告、郵送チラシなどの有料メディアであり、SNSはあくまで補助的な役割にとどまるのが一般的だった。

 候補者は支持者集会や記者会見といったオフラインの露出に注力し、SNS上ではスタッフが管理する定型的な発信(声明の転載やニュース共有)が中心で、双方向の対話や斬新な演出は控えられる傾向が見られる。また、高齢者を含む幅広い有権者層にリーチするため、巨額の予算を投じてテレビ広告や郵送物で知名度を上げる戦略が重視された。

 前述の通り、クオモ陣営はこの戦略を継承している。今回の市長選キャンペーンにおいて、彼らは約2500万ドルもの選挙資金を主にテレビ広告や郵送による宣伝に投入し、SNS上では比較的おとなしめの発信に終始したと指摘されている

 また英ガーディアン紙は、クオモ陣営は記者会見でのスピーチや抽象的なスローガン(「変化」「立て直し」の必要性など)を繰り返す「オールドスタイルの戦術」を取っており、選挙戦中は有権者の前に姿を現す機会も少なく、演壇に立って語るという画一的な姿が目立ったと解説している

 言い換えれば、これまでの政治家はSNSを革新的に活用するよりも、安全で従来通りの広報戦術(定型的メッセージの発信とマスメディア露出)に頼る傾向が強かったのである。

 これに対しマムダニは、複数のSNSプラットフォームを駆使し、特にTikTokとInstagramでの短尺動画発信を積極的に活用した。若くカリスマ性あふれるマムダニ自身が、これらのプラットフォーム上に洗練された動画を定期的に投稿し、存在感を向上させたのである。

 Wired誌によると、TikTokではマムダニ陣営が発信用に使用したハッシュタグ「#ZaddyZohran」が流行し、候補者本人に匹敵するほど多数の投稿が集まる盛況ぶりだったという。また、X(旧Twitter)でも積極的に情報発信し、支持層との対話や話題喚起に努めている。実際、2025年6月頃には「“Zohran Mamdani”とツイートするだけで即座に1000件のいいねが付く」と評されるほどX上での人気を誇った